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概要:安全資産であったはずの円の現預金を取り巻く環境は近年大きく変わりました。ここしばらく放置しておいた円預金は、気づかぬうちに対ドルでの価値が大きく目減りしたはずです。まだその事実に気づいていない人もいるのでは?
ドル/円相場は再び円安が進み、2022年10月(上画像)に記録した150円台到達の可能性も出てきている。円を現預金のまま放置しておくと……。
REUTERS/Issei Kato
岸田政権が目指す「資産運用立国」に乗じて、家計の資産運用をテーマとする報道が増えている。
2024年に始まる新たな少額投資非課税制度(NISA)では、非課税投資枠が大幅に引き上げられ、投資期間も無期限になるなど、大幅な拡充が図られるため、多くの家計にとって投資先の取捨選別が自分ごとになってきたことも背景にあるのだろう。
8月19日付の日本経済新聞は『現預金が10年で2割減も?インフレ下のリスク』と題し、日本の家計部門が資産の大半を円の現預金で保有することのリスクを特集している。
同紙は8月21日付の記事『資産運用立国に挑む(1)2000兆円の機会損失』でも類似の論点を取り上げた。
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機関投資家(銀行や保険会社、年金基金などの大口投資家)は、内部で「キャッシュ潰し」という言葉が使われるほど、現金を無用に抱えるリスクを強く意識するが、日本の家計部門ではまだまだ「現金で持っておくのが何より安心」といった認識が根強い。
だが、安全資産であったはずの円の現預金を取り巻く環境は変わった。ここしばらく放置しておいた読者の円預金は、気づかぬうちに対ドルでの価値が大きく目減りしたはずだ。もしかしたら、まだそのことに気づいていない人もいるかもしれない。
下の【図表1】を見れば分かる通り、ドル/円相場の過去は基本的に「円高の歴史」だった。
【図表1】変動相場制移行(1973年)後のドル/円相場の推移。
出所:Datastream資料より筆者作成
したがって、為替の視点だけから見れば、これまで「円の現預金」は賢明な選択だったことになる。
しかし、それはあくまで「これまで」の話だ。
円は2022年、対ドルで前年比最大30%下落、対ユーロで同最大18%下落した。通年で見てもそれぞれ同12%、同7.5%の下落幅だった。3年前との比較(2019年末と22年末)だと、対ドルで17%下落、対ユーロでは13%下落と、その幅は広がり、円の価値の目減りに勢いが感じられる。
2023年に入ってから、日常生活に関係する財・サービスの価格が著しく値上がりしているように感じるのは、こうした名目ベースでの円安傾向も影響している。
こうした状況から、今後は、円の現預金を手放すことで実現できる生活防衛、そういう手法に対する意識が、多くの人に認知されていく可能性がある。言い換えれば、外貨建ての資産を「持たざるリスク」の存在に気づかされるようになるだろう。
過去の寄稿でも指摘したことだが、ドル/円相場は2012年前後から円高になりにくくなっている。下の【図表2】を見ると納得できるのではないか。
【図表2】円の実質実効為替相場(REER、折れ線)の推移と長期平均(黒太線)。
出所:国際決済銀行(BIS)資料より筆者作成
この2012年前後という変節点は、ちょうど趨勢(すうせい)的に貿易黒字が稼げなくなった時期と符合する。
円相場が構造的に変わり始めたのがそのあたりで、そこにデジタルやコンサルティング、研究開発といった分野で近年拡大しつつある「新時代の赤字」が重なってきたことが円相場の軟調を招いている、というのが、筆者が以前から提示してきた仮説だ。
なお、上で触れた円相場の動向は名目ベースの話で、物価格差を加味した実質ベースで見ると、円の価値の目減り幅はさらに大きくなる。
貿易量や物価水準を踏まえて算出される「実質実効為替相場(REER)」は、2022年に前年比14%下落しており、2023年7月時点の水準(2010年を100とした時に70.24)は1971年8月以来、半世紀ぶりの円安水準となっている。
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外貨資産を「持たざるリスク」が顕在化
資産運用を検討する上で重要なのは、こうした日本の「劣後」は、通貨という資産クラスにとどまらないということだ。
前出の日本経済新聞記事には「機会損失2000兆円」との仰々しい見出しが掲げられている。その数字を額面通り受け止めるかどうかは脇に置くが、米国株やドル/円相場の現実の動きを踏まえる限り、外貨建ての資産を「持たざるリスク」がリスクにとどまらず、機会損失を生み出していることは間違いない。
例えば、株価指数で見た場合、直近3年間(2019~2022年)について、日経平均株価(日経225)や東証株価指数(TOPIX)の上昇率が9%程度だったのに対し、ダウ工業株30種平均(NYダウ)やS&P500種株価指数は15~18%程度と、倍近いリターンを記録した。
もしそうしたアメリカの主要株価指数(に連動するファンド)に、為替リスクヘッジ(為替相場変動による損失を抑えるための予約取引)なしで投資していたら、円安ドル高による為替差益も上乗せされ、日米のリターンの差はもっと大きくなったはずだ【図表3】。
【図表3】日米の主要株価指数のリターン。2019年末を起点に、22年末時点、23年8月時点の上昇率を示した。為替差益は、同期間のドルの対円変化率を計上した。
出所:Bloomberg資料より筆者作成
もっとも、株式市場に関して言えば、日本株のパフォーマンスが米国株に劣後する構図は長年続いてきたものだ。これまではそのような構図が問題視されることはあまりなかった。
それはおそらく(金融資産の大半が現預金で、外国株式の形で資産を保有している人が少ないため)日常生活に直接的な痛みをもたらさなかったからだろう。
その点、為替はそうはいかない。
自国通貨の価値が外貨に対して下落した時、「海外旅行に行かないから関係ない」という話にはならない。輸入物価を経由して、結局は一般物価にまで影響が及ぶことになるからだ。
もちろん、多少の円安なら企業部門が(いわゆる「企業努力」で)吸収するだろうから、家計部門の痛みにまでは発展しない。しかし、2022年以降のように短期間でこれほど通貨価値が下落すると、さすがに企業も価格転嫁なしではやっていけない。
企業による価格転嫁が本格化し、家計部門は容赦ない物価上昇にさらされ、外貨建て資産を「持たざるリスク」をこの上なく感じ取りやすい状況に陥っていると言える。
1年物の米ドル定期預金でも4~5%の金利が…
筆者は、日銀が資金循環統計を四半期ごとに更新するたび、最新の数字を用いて、「家計の円売り」こそ日本経済が抱える最大のリスクだと論じてきた。
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2023年3月末時点で円の現預金は約1100兆円、家計金融資産2043兆円の54%を占める。
2022年に世界の注目を集めた米連邦準備制度理事会(FRB)による数度の利上げを経て、1年満期の米ドル定期預金でも4~5%の金利が付く状況(金融機関によって条件は異なる)が目の前にあるのに、いまだに日本人にとって最大の資産クラスは金利の全く付かない円の現預金のままだ。
過去1年半で円のドルに対する購買力が最大30%も下落し、ほぼその水準から変化がないこの状況では、日本の家計部門がいくら保守的だとしても、さすがに外貨への資産シフトを検討するくらいの変化は出てくるのではないか。
なお、金融のプロフェッショナルである識者たちが「アメリカの景気後退入りとそれに伴うFRBの利下げ」が次の大きな展開だと指摘する中、その動きを待ってから判断しても遅くないと考える人も少なからずいそうだ。
しかし、そのような展開になったとして、本当に円高ドル安は進むのだろうか。
もちろん、日米の金利差が縮小すれば、円高方向には進むだろう。だが、かつてとは異なり、貿易収支だけではなくサービス収支からも外貨流出が拡大する現在の日本の状況で、100~120円といった過去の水準を回復する展開まで期待できるだろうか。
それは難しいと筆者は考える。これまでもそう主張してきた。FRBの利下げが現実味を帯びてきたとしても、130円割れを臨む展開は難しいというのが現時点での相場観だ。
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1ドル100円に急騰したところで問題は解決しない
筆者としては想像しがたい展開だが、議論のために百歩譲って100~120円の水準まで戻ったとしよう。
しかし、それは先に触れたのと同様にあくまで名目ベースの話であって、実質ベースで考えると事情は変わってくる。
例えば、2023年1月にドル/円相場は127円台まで下落し、それが年初来の安値となっている。2022年11月に付けた高値の152円近くに比べると、16%の下落(円から見れば16%の上昇)だった。
しかし、同じ期間に円の実質実効為替相場(REER、前出)は7%強しか回復していない。日本の物価環境が海外に対してあまりにも長く大きく劣後してきたために、物価変動を加味しない名目ベースで一時的に円の買い戻しが起きても、実質ベースの円の「弱さ」は簡単に修正されないのだ。
名目と実質の話は多少分かりにくいので、日常生活に即した単純な例を挙げてみよう。
例えば、ニューヨークでは現在、500ml入りのミネラルウォーターが2~3ドル(145円換算で290〜435円)という。日本では、まとめ買いによる割引などで値幅はあるだろうが、ざっくり言って100円前後だ。
極端な話、1ドル100円まで円相場が急伸した場合、アメリカのミネラルウォーターの値段は200〜300円になるが、それでも日本に比べて2~3倍高い状態が続く。名目ベースの為替相場が修正されたところで、大きな構図は変わらないことを理解いただけるだろう。
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より根深い問題は、財・サービスに付けられている「値札」の違いだ。
ここでは結論だけにとどめるが、この値札の違いは賃金格差に起因する。日本より高い賃金コストをかけて提供される財・サービスが、日本より高い値段で販売されるのは当然だ。
また、日本が海外から財を輸入する際は、これも当然のことだが、格差のある賃金が乗せられた支払いを強いられることになる。
そして、問題がそこに根差していることは把握できても、実際のところ、賃金格差を簡単に埋めるのは難しい。
置かれた状況をそこまで認識できてしまうと、せめて名目ベースで生じる不利益くらいは外貨運用を通じてヘッジしようという発想に至るのはごく自然な話で、それが「持たざるリスク」を自覚するということだろう。
そのような家計の自覚、それに伴って外貨建て資産を求める動きが出てくれば、金融市場においても無視できないフローとして分析の対象になるはずだ。
言い方はあまり良くないが、日本では「皆がやっているからやる」という空気が、合理性以上に行動基準として採用されやすい。国を挙げて資産運用を焚きつけようとする今、例えば新NISAの導入を機に「皆がやっている」の空気が出てくれば、外貨建て資産への動きが加速する可能性もある。
そしてそれはとりも直さず、(円を売りたい需要がさらに増加するという意味で)大きな円安リスク、ひいては日本経済の大きなリスクとなるだろう。
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