简体中文
繁體中文
English
Pусский
日本語
ภาษาไทย
Tiếng Việt
Bahasa Indonesia
Español
हिन्दी
Filippiiniläinen
Français
Deutsch
Português
Türkçe
한국어
العربية
概要:梅雨入り前後の外国為替市場で、トルコリラ/円相場の歴史的な値崩れが進んでいる。6月9日の東京市場では一時、5円84銭と史上最安値を記録する場面があった。
[東京 20日] - 梅雨入り前後の外国為替市場で、トルコリラ/円相場の歴史的な値崩れが進んでいる。6月9日の東京市場では一時、5円84銭と史上最安値を記録する場面があった。
梅雨入り前後の外国為替市場で、トルコリラ/円相場の歴史的な値崩れが進んでいる。植野大作氏のコラム。
トルコリラ/円下落の背景は明白だ。近年、トルコの経常収支は赤字が定着しており、実質金利を高く保って海外からの投資資金を呼び込み、国内マネーの海外漏出を防がなければ、通貨価値の安定を確保し難い状況にある。
にもかかわらず「金利は諸悪の根源」であり「金利と闘い続ける」と主張するエルドアン大統領の意向を踏まえ、トルコの中央銀行は政策金利を8.5%と、直近5月のインフレ率実績である39.5%を30%以上も下回る低い水準で据え置いている。
経常収支赤字国の中央銀行が実質年率3割を超える驚愕(きょうがく)のマイナス金利政策を採用しているわけだから、通貨リラに下落圧力が掛かるのは自明の理だ。
トルコ政府が最近、リラ買い介入等の通貨防衛策を止めたことが、リラ安加速のきっかけになったことは事実だ。だが、枝葉の問題に過ぎない。トルコリラ下落の真因は、もっと根深いところに横たわっている。
<エルドアン氏を選んだトルコ国民>
5月中旬と下旬の2回に分けて行われたトルコ大統領選挙では「金融政策の正常化によるインフレ退治」を訴えた野党連合候補のクルチダルオール氏が敗北。「金融緩和によるインフレ抑止」の継続を主張する現職エルドアン氏の再選が決まった。
今回のトルコ大統領選挙の投票率は、1回目が87%台、2回目の決選投票も86%台と非常に高かった。有権者の8割5分以上が参加した国政選挙で現職エルドアン氏の再選が決まったことにより、伝統的な経済学の考え方とは相容れない経済政策を今後も最大5年間続ける可能性について、民意による「お墨付き」が与えられたことになる。
このため、今後もトルコリラ円相場は、すう勢的な右肩下がりの傾向を維持する可能性が高い。トルコ大統領選後に猛烈な勢いで進んだリラの下落はあまりにも一方的で急激かつ下げ幅も大きいので、短期的な売られ過ぎの修正を促す自律反発の局面を迎えれば、一時的には相応の値幅で買い戻される可能性はあるだろう。
ただ、現在のトルコリラは「短期的にみてあまりにも一方的に売られ過ぎた」という以外の理由で、買うべき論拠を見出すのが難しい通貨になっている。
トルコ中銀が現在採用している実質超マイナス金利政策を改め、持続的な政策金利の引き上げによるインフレ抑止を目指す方針転換を行わない限り、高インフレと通貨安の悪循環が止まる可能性は低い。
<注目される新財務相・中銀総裁コンビ>
そのような状況下、トルコ大統領選後に新たな財務相に起用されたシムシェキ氏は、伝統的な経済学の考え方に則した金融政策の採用によるインフレ退治への転換を示唆。新たな中銀トップに就任したエルカン氏との二人三脚による政策変更への期待が強まっている。
新体制になって初めてのトルコ中銀の政策会合は、22日に開催される予定だが、14日にエルドアン大統領は、新たな財務相と中銀総裁による「迅速な対応を受け入れる」と発言している。このため、市場関係者の間ではトルコの政策金利が最低でも20%台前半程度の水準まで引き上げられるのではないかとの期待が強まっている。
22日(日本時間午後8時)に明らかになるトルコ中銀の会合結果で、もしも市場の期待通りの大幅利上げが実施されたならば、リラは一時的に反発するだろう。これまでの下げ方があまりにも激しかったため、反動による切り返しの値幅もそれなりに大きくなる可能性はある。
ただ、今週の中銀会合でトルコの政策金利が仮に20%台の前半まで引き上げられても、現在39.5%のインフレ率から、まだ15%近くも低い水準だ。実質金利が大幅なマイナス圏に水没している状態が一気に解消される状況ではない。
トルコの実質金利を最低でもゼロ%近辺まで引き上げるために必要な追加利上げを続ける方針をトルコ中銀が示すなら、一方的なリラ安トレンドにブレーキが掛かってトルコ国内でのインフレ期待も徐々に沈静化する可能性はある。
だが、かつてトルコのインフレ率が非常に安定していた2005年から15年頃までの消費者物価(CPI)上昇率をみると、平均10%前後で推移していた。今後、トルコ中銀による金融引き締めにより、トルコのCPI上昇率が「平時の水準」である10%程度まで下がったとしても、中長期で2%の物価目標を掲げる主要国との期待インフレ率の格差は年8%程度も残ることになる。
平時における国内外のインフレ格差によって計算される購買力平価が毎年8%程度の速度で減価し続けている通貨建ての資産に安定的な海外からの投資資金を呼び込み、国内マネーの海外流出を防ぐためには、実質金利の水準をゼロ%付近に引き上げるだけでは不十分だ。
最低でもトルコの実質金利を相応のプラス圏まで引き上げた上で長く維持する必要があるが、その場合はトルコ国民に応分の金利負担の痛みが走ることになる。
また、エルドアン大統領はこれまで、トルコ中銀が正統派の利上げによるインフレ退治に取り組むことを一時的に認めても、インフレ鈍化の兆候が表れると利下げを要求し、応じない場合は中銀総裁を更迭した経緯がある。
仮に今週22日の中銀会合で利上げ政策への転換が始まったとしても、持続性に対する市場の信認が得られるか否かは未知数だ。
古今東西、ひとたび高インフレ体質が定着してしまった国が、通貨安とインフレの悪循環からスッキリ抜け出すのは「至難の業」だ。新たな体制で船出したトルコの経済政策チームによる今後の政策運営の安定性が問われることになるだろう。
編集:田巻一彦
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
免責事項:
このコンテンツの見解は筆者個人的な見解を示すものに過ぎず、当社の投資アドバイスではありません。当サイトは、記事情報の正確性、完全性、適時性を保証するものではなく、情報の使用または関連コンテンツにより生じた、いかなる損失に対しても責任は負いません。