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概要:「投資離れ」が進むなか、国内月間利用者8100万人を超えるLINEと、証券最大手の野村證券が新たなスマホ投資サービスを開始した。成功のカギを握るのは……。
8月20日、「LINE証券」ローンチ記者発表会にて。左から、LINE Financial CEOの齋藤哲彦氏、LINE証券Co-CEOの米永吉和氏、同じくCo-CEOの落合紀貴氏、野村ホールディングス執行役員の池田肇氏。
撮影:川村力
みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏は、Business Insider Japanへの寄稿(7月24日)でこんな事実を指摘している。
「金融危機を経て現預金(外貨預金を除く)は48.1%から52.9%へ上昇したのに対し、株式・出資金は12.4%から10.0%へ低下している。この2時点間(2007年6月末から2019年3月末)だけを比較すれば、『貯蓄から投資へ』どころか『投資から貯蓄へ』と資産形成が進んだことがわかる」
「貯蓄から投資へ」の流れを加速する、と小泉純一郎首相(当時)が施政方針演説で語ったのが2003年。それから15年以上が過ぎ、むしろ投資から貯蓄へと流れるとは、小泉元首相も息子の結婚以上に驚いているに違いない。
「投資から貯蓄へ」という現実を変えられるか
「LINE証券」サービスの、ユーザビリティの高いデザイン。
出典:LINE証券プレスリリース
そんな「投資離れ」が進むなか、国内月間利用者8100万人を超えるLINEと、証券最大手の野村證券が新たなスマホ投資サービスを開始した。
両社は2018年6月に「LINE証券」の設立準備会社を設立。LINE金融子会社のLINEフィナンシャルが51%、野村證券が49%を出資し、2019年6月には第1種金融商品取引業の登録を完了。今回、満を持してサービス開始に至った。
Android端末での提供が先行し、近日iOS端末でも使えるようになる。
取引口座への入出金は、銀行口座振り込みのほか、スマホ決済サービス「LINE Pay」の残高も使える。LINE Payの国内月間利用者は490万人超(2019年6月末時点)に達しており、残高の投資への流入が期待できる。
LINE証券が強調する5つの特徴
みずほ銀行、ヤフー、トヨタ自動車、セブン&アイHDなど、日本を代表する企業銘柄が並ぶ。ちなみに、LINEと野村證券の株式はポートフォリオに含まれない。
出典:LINE証券プレスリリース
サービスの特徴は以下の5点に集約される。
1. 厳選した日本の有名企業100社と国内ETF9種類を用意
時価総額や配当利回りなどからLINE証券が選びだした個別銘柄、あるいはTOPIX、東証REIT、NYダウ、NASDAQ、金、原油などの指数に連動する国内ETF(上場投資信託)に投資できる。
2. 多くの銘柄が数百円から3000円以下で購入可能
株式、ETFともに1口単位、1株単位で、3000円以下の少額から投資できる。
国内ETF(上場投資信託)も9種類、1口から取引可能。
出典:LINE証券プレスリリース
3. 平日夜21時まで即時注文・即時約定可能
平日のランチタイムや仕事帰りの21時まで、即時に取引を成立させることができる。
4. LINE上で最短約3分で口座開設申込みが可能
別途アプリをダウンロードする必要がなく、LINE上で簡単に取引口座を開設申し込みできる。ただしその後、簡易書留ハガキを受け取ることで本人・住所確認する必要がある。
5. LINEウォレット内でわずか6タップで購入できる
LINE PayやLINEスマート投資など他の金融サービス同様、「ウォレット」タブから銘柄選択、購入など6タップ(簡単な取り引きなら30秒ほど)で手続きが完了する。「3000円以下で買える」「前日比値上がり率」など直感的に選べるカテゴリやランキングも用意され、投資初心者にもフレンドリー。
「初心者のための少額投資」は新しくない
LINE上で口座開設を完了できたり、LINEウォレットからわずかな操作で取引を完了できたりするのは、スマホを通じたコミュニケーションの円滑化を大事にしてきたLINEらしい仕様だ。
ただし、上記4.にあるような「最短3分での口座開設申込完了」は、近年ユーザーを増やしてきた「ウェルスナビ」「THEO(テオ)」のようなロボアドバイザー投資で、もはやおなじみのフレーズでもある。
また、3000円以下の少額から投資できる気楽さは、経験と資本の多くない投資初心者にとって確かに魅力的ではある。
投資初心者をより広く呼び込むべく、「LINEスマート投資」にはワンコイン投資サービスが追加された。
出典:LINE Financialプレスリリース
ただ、そうした資産運用のスタイルも目新しいものではなく、LINEウォレットから使える金融サービス「LINEスマート投資」が売りにしてきたものだ。
LINEスマート投資は、ユーザーが興味を持つ「中国」「人工知能」といったジャンルのテーマを選び、そのテーマに沿った企業数社に少額分散投資できる「テーマ投資」が主体。
2019年4月からは、1日500円から積み立てできる、ロボアドバイザー型の投資商品「ワンコイン投資」を追加。同時に(LINEの主な収入源である)運用手数料を無料にするキャンペーンも始め、投資初心者の巻き込みに本腰を入れることを明らかにしたばかりだ。
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そう考えると、数千円という少額からの個別銘柄投資は間違いなく新しい選択肢ではあるものの、投資初心者を巻き込む発想やポイントは決して新しいものではない。
「成功体験」を生み出せるか
LINEスマート投資のサービス開発をLINEと共同で進めるFOLIOの最高経営責任者(CEO)、甲斐真一郎氏はBusiness Insider Japanの取材に対し、4月にこう答えている。
「長期投資であればあるほど、最初の成功体験は重要。人は儲かっていれば続けるし、勉強もしはじめる。成功体験と勉強というポジティブなスパイラルが生み出されるのが、始まりのこの1年間だと思っている」
パチンコや競馬に例えるのはふさわしくない文脈だが、人の行動がいかに刺激され、維持されるか、身のまわりにあるわかりやすい実例を思い浮かべれば、甲斐氏の発言には深く納得できる。
その意味で、厳しい言い方になるが、LINE証券が今回示したサービスは、成功体験を得るためのスタート地点になるたけ素早く、楽しくたどり着くための条件を整えたにすぎない。
冒頭に書いたように、政府が国民啓発の広報など相当な費用をかけて後押しし、新たなテクノロジーを武器に数々の新しいプレーヤーが資産運用分野に参入したにもかかわらず、投資どころか貯蓄額が増える結果となったこの日本で、前例を覆す成功例になれるかは未知数だ。
野村證券の「本気」がカギ
記者発表会では、野村證券とLINEのユーザーを合わせた規模感や資産形成年齢層とのマッチングが強調されたが、ユーザーに投資を継続してもらうには、金融分野におけるノウハウの活用が必須だ。写真左下は同社執行役員の池田肇氏。
撮影:川村力
記者発表会に登壇したLINE証券の代表たちは「今日の発表はあくまで第1弾にすぎない」とくり返した。もちろん、第2弾、第3弾を楽しみにしている。しかし、記者が最も期待したいのは、対面販売証券の「ガリバー」と呼ばれた野村證券の力だ。
ユーザービリティ、アクセシビリティ、セキュリティ、デザインセンス……LINEが武器とするもののすべてがこのスマホ投資サービスに注ぎ込まれているのは一見して感じられる。にもかかわらず、パートナーである野村證券の姿は、今日の時点でははっきりと見えてこない。
スタート地点に立ったあと、FOLIOの甲斐氏が言う「成功体験」を生み出せるのは、資産運用のプロである野村證券が長年培ってきた経験と人材ではないだろうか。
「金融×テクノロジー」の本当の意味での融合に期待したい。
(文:川村力)
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