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概要:3年も前に発表された着物の広告が今炎上している。その企業も、コピーライターも女性。なのに、なぜこんな表現になってしまったのか。
東京・銀座の着物店「いせよし」の広告が批判されている。問題は着物姿の女性を映した写真に添えられた短いコピーだ。広告は、2016年からいせよしがブログで紹介していた。
炎上した3年前の「銀座いせよし」の広告。Twitterなどでこの広告が問題視され、いせよしは公式HPから削除している。東京・銀座「いせよし」の公式サイトから
「ハーフの子を産みたい方に。」
「ナンパしてくる人は減る。ナンパしてくる人の年収は上がる。」
これらのコピーについて、海外にルーツを持つ人などがTwitter等で批判している。加えて、外国人男性や高収入男性を惹きつける道具として着物を利用する価値観に、着物が好きな人も反発している。
この広告は東京コピーライターズクラブ新人賞に入選していたことから、担当したコピーライターの名前や所属も早いうちに明らかになった。コピーライターもクライアント企業のトップも女性だった。
約3年も前の広告がなぜ今炎上したのだろうか。
作り手が受け手を見下している構図
広告の作り手に女性が入っているからと言って、作り手と受け手の意識がギャップがあれば、炎上を起こしかねない。
撮影:今村拓馬
SNSで関連意見などを読んだ中で、いちばん納得感があったのは、映画ライターでコラムニストの渥美志保さんによるこちらのコラムだ。渥美さんは、広告の作り手が女性だったことに目を向ける。その上で受け手として想定した女性たちとの間に断絶があり、作り手が受け手を見下している構図に問題を見出した。
この記事では、渥美さんが指摘した「断絶」が生まれる理由や背景を考えてみたい。
筆者はジェンダーやダイバーシティに関連するCM動画や広告の炎上事例について取材・執筆や、講演・研修をしている。特に「作り手と受け手のギャップ」は重要な切り口だ。
ここ数年、SNSでCMやテレビ番組の感想や批判を書き込む人が増えている。それを目にした制作者は視聴者と制作者のギャップや、それを埋める必要性を感じたりしている。
これまで取材した事例で、作り手が確信犯として炎上させた事例はなかった。皆、炎上が起きて初めて、受け手の中に怒っている人がいることを知って驚いている。
中には、炎上事例に関する記事が何本も出ていても、「なぜ、みんな、そんなに怒ったんだろう」と理由が分からない人すらいる。「そんなつもりではなかった」というのは、CMや広告に限らず、記事などが炎上した時にも聞く常套句だ。
作り手は、受け手を「励ますため」もしくは受け手の抱く願望を「可視化するため」に動画やポスターや記事や番組を作っている。少なくとも、そういうつもりでいる。
男性以上に「男らしい」女性たち
作り手が女性であっても、それは「見た目女性」ではない?(写真はイメージです)。
K.D.P/Shutterstock
筆者が調べた企業で、女性消費者を想定した製品・サービスの場合、責任者が女性だったり、チーム内に女性がいたりするのは当然だ。だから、炎上に際して「男性目線で作っているから」とか「組織に女性がいないから」というのは、企業広告については、あまり当てはまらない。
むしろ作り手の中に女性がいても、社外の多くの女性消費者とはかけ離れた感覚を持っていて、それに気づいていないことが問題だ。また「女性の意見を聞きたい」と社内で言われた時に本音を話しにくいこともある。先輩や上司の仕事にダメ出しもしにくい。その結果、社内で女性の意見を聞いても、チーム内に女性がいてもチェック機能は働かず、社外の女性が見た時には違和感を覚えるような発信となってしまう。
要するに、組織内に「見た目のダイバーシティ」を確保するだけでは足りない、ということだ。中身のダイバーシティが確保されているのか、組織内を見つめ直すことこそ必要だ。
大企業で責任ある仕事につく女性は、組織内で多数派である男性の言動に合わせて仕事をするうちに「内面が男性化」する場合がある。
例えば多くの働く女性たちは、飲み会の席で下ネタやセクハラ発言をいちいち真に受けず上手に受け流す術を覚えていく。そのうち、自分も積極的にそういう発言をするようになる場合もある。男性社会に過剰適応した女性は、見た目は女性だが中身は男性以上に「男らしい」。
笑顔を見せずスカートを履かないと決めた
スカートなど女性らしいものをやめなければ、相手にしてもらえない現実もある。
撮影:今村拓馬
筆者は約16年の会社員時代、上司のほぼ全員が男性で、女性上司は片手で数えられるくらいという環境で過ごしてきた。特に20代の頃は、自分の祖父くらいの年代の経営者に取材に行くことが多かった。
一度、ある経営者にからかわれて以降、取材時は相手に軽く見られないよう、笑顔を見せないことに決めた。事前にしっかり予習をした上で、挨拶の後は一通り、予習の成果を披露する。スカートははかない。そうすることで「見た目は孫娘」だとしても、「この人は俺と同等の目線で話せる」と思ってもらえる。裏を返せば、そのくらい工夫しないとまともに話をしてもらえない。
職場の上司、先輩のほとんどは紳士的だったが、中には酔うと昔の恋愛や不倫経験を語り続ける人や、近くの席に座った部下の性体験を尋ねるような人もいた。こうした光景を見慣れているうちに、良くも悪くも耐性がついてしまい、イヤだとすら思わなくなっていた。
自分もセクハラ助長していた可能性
不快なことに対しては不快だと言える空気こそ大事。
Rawpixel.com/Shutterstock
会社を辞めて独立した直後、ある企業のジェンダー・ダイバーシティに関する仕事をした。女性管理職はたくさんいる先進企業だったが、経営者はもっとダイバーシティを進めたいという意欲を持っていた。男性役員もやる気があったし、既に女性役員が複数いた。
この企業で社員全員にアンケートを取り、ジェンダー関連で気になることについて問うと、過去のセクハラ事件に対する会社側の対応の不備を批判する人がいた。飲み会の席でのセクハラについて書いた人は、「女性の中に、そういう発言を笑って受け流す人が少なくないことも問題だと思う」と指摘していた。
これらの意見記述はいずれも男性によるものだった。社内の性差別やセクハラに憤りを感じて、それを表明する男性が少なからずいることを知った。
アンケート結果を読み進め、その企業に対する提案を考えながら、会社員時代の自分の言動を反省した。これまで笑い話として聞き流し、時に場を盛り上げるために合いの手を入れていた、ああいう発言を不快に思っていた人は女性だけでなく男性もいただろう。
かつては見た目が「若い女」であるというだけで、免責されたつもりになっていたが、自分も環境型セクハラを助長していた可能性はある。いわゆる「男性社会」の仲間に入れてもらうため「男性的」にふるまった結果であるけれど、そもそも筆者が考えていた「男性的な文化」に、個々の男性たちはいったいどのくらい賛同していたのだろうか。
女性だから女性が分かるわけではない
いせよし広告問題で見えてくるのは、働く女性による、仕事以外を優先する女性への軽蔑だ。
ANURAK PONGPATIMET/Shutterstock
「ハーフの子を産みたい方へ」というコピーの問題はターゲット層に対する過度な決めつけだ。ある年齢層の女性は結婚したい、と思っている。結婚したがる女性は、相手の年収が高いほどいいはずだ。きっと、見た目が良い子どもを欲しがるだろうから、外国人男性を惹きつけたいと思っているだろう……。
そこに透けて見えるのは、仕事を優先する女性が仕事以外を優先しようとする女性に対する蔑視である。「私たちは、彼女達とは違う」という名誉男性の目線である。
この広告制作者が女性だという情報に接した時、筆者が思い出したのは、会社員時代の自分のことだった。あの当時、できる限り「男らしく」ふるまおうとしていた筆者には、自分と違うライフスタイルの女性のことは、まるで分かっていなかった。
会社員ではなかったり、男性と同じように残業当たり前の仕事をしていなかったり、就労していない女性の気持ちは理解できていなかったし、結婚や出産をして仕事以外のことを優先している人の心情は想像すらできていなかった。せいぜい「大変そうだな」というおざなりな言葉しか、出てこなかっただろう。
「まずくないですか」と言える職場に
仮に当時の自分が自分と同世代の女性に向けたメッセージを書いていたら、炎上するようなものになった可能性が高い。単に性別が同じというだけでは、分からないことはたくさんある。筆者は当時、違う環境にいる女性について想像力がなかった。だから、このコピーは嫌だなと感じつつも、完全に外から批判できる立場にもない、とも思う。
このケースでは、3年前の広告が「発掘」されて、SNSで批判された。自社でも同じようなことが起きるかもしれない、と心配になっている企業関係者は少なくないだろう。防止策は、マニュアルの整備やNG用語集を作ることではない。回り道でも社内に本当の意味での多様性を確保することが重要だ。
そのためには「見た目が女性」を増やすだけでは足りない。見た目が男性であろうが女性であろうが、社内で今、進んでいる物事について違和感を覚えたら、それが上司や先輩の発案であっても「ちょっと、まずくないですか」と言えるようなマネジメントをすることだ。
本来、ダイバーシティ戦略とは、このような広告の炎上も含めたリスクを減らす効果があるはずなのだ。
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治部れんげ:ジャーナリスト。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社入社。その間、2006~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員としてアメリカの共働き子育て先進事例を調査。2014年からフリーに。国内外の共働き子育て事情や女性の働き方に関する政策について調査、執筆、講演などを行う。
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