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概要:AmazonのクラウドサービスやGoogleのネット広告など、欧米の巨大IT企業に支払う料金は年々増えている気がします。端的に言えばそれは「外貨の流出」。円安の遠因でもあり、実は深刻な問題です。さて、その規模感はいかほどか……。
クラウド、人工知能(AI)、顧客関係管理(CRM)……日本から欧米の大手テック企業に支払うデジタル支出は増える一方に感じられるが、その動きは日本経済の先行きに大きな影響を及ぼす可能性がある。
Andreas Prott/Alamy
筆者は過去のBusiness Insider Japan寄稿で、日本の国際収支におけるサービス収支、とりわけその他サービス収支の赤字拡大をけん引するいくつかの収支内訳を「新時代の赤字」と呼び、それが粘着的な円安の遠因となっている可能性を繰り返し指摘してきた。
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財務省が10月10日に発表した直近8月の国際収支統計を見ると、その他サービス収支赤字は5229億円、年初来の合計で4兆6710億円だった。前年同期(1〜8月)の3兆5670億円から1兆円以上膨らんだ。
ただ、サービス収支のうち、旅行収支がインバウンド(訪日外国人観光客)需要の増大を受け、8月としては過去最大となる2582億円、1~8月合計で2兆3656億円と、前年同期(1742億円)の13倍以上という大きな黒字を記録。サービス収支全体の赤字拡大を一定程度抑制する結果となった【図表1】。
【図表1】サービス収支と内訳の変化。2023年については上半期(1〜6月)の数字を用いた。
出所:日本銀行資料より筆者作成
こうした近年の国際収支におけるサービス収支の構造変化について、興味深い議論を展開しているのが、8月10日に発表された日銀レビュー『国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化』だ。
筆者は過去の寄稿で、その他サービス収支の赤字拡大の実態は「デジタル」「コンサルティング」「研究開発」というキーワードで読み解けると主張してきたが、上記の日銀レビューはより精緻(せいち)な分類を用いてサービス収支全体の変化を捉え、近年の構造変化を浮き彫りにしている。
日銀は、サービス収支を以下の5類型に分類する。
モノの移動や生産活動に関係するもの(モノ関連収支)
ヒトの移動や現地での消費活動に関係するもの(ヒト関連収支)
デジタルに関係するもの(デジタル関連収支)
金融や保険に関係するもの(カネ関連収支)
上記以外(その他)
例えば、インバウンド関連の受払(要するに旅行収支)は2の「ヒト関連」収支に、米巨大IT企業が提供するプラットフォームやインターネット広告関連の受払は3の「デジタル関連」収支に計上する。
日本での業容・売上拡大が近年顕著になってきた外資系コンサル会社への支払いも「デジタル関連」に計上している。
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いわゆる「デジタル赤字」の規模感
年初に日本経済新聞が「デジタル赤字」をテーマとする記事(2月8日付)を公開し、それなりの話題を呼んだこともあって、筆者も関係者から「デジタル関連の赤字は、実際のところどれほどの規模感なのか」との問い合わせを受けることがある。
前節で紹介した日銀分類を用いると、その実態がより明確になる。サービス収支の内訳を日銀分類に従って組み替え、直近8月までの変化を追ったのが下の【図表2】だ。
【図表2】サービス収支とその内訳(類型別)の変化。2023年については、1〜8月の合計値を用いた。
出所:日銀レビュー「国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化」より筆者作成
およそ20年ぶりの高水準を記録した2022年のサービス収支赤字5兆4202億円のうち、実に4兆7814億円が「デジタル関連」収支の赤字に分類された。
前節で例示したように、外資系コンサル会社への支払いや国際スポーツ大会へのスポンサー料の支払いなどもまるごとデジタル関連収支に分類されるため、若干のズレが生じることは否定できないが、それは大きな違和感を生じさせるレベルではない。
さて、このデジタル関連収支の赤字は(比較可能な最も古い統計データのある)2014年に2兆1483億円だった。したがって、2022年までの8年間で倍以上に膨らんだことになる。
インバウンド関連の受払を含む「ヒト関連」収支が同時期に8166億円の赤字から7696億円の黒字へと転換し、今後は2兆円超の黒字を安定的に稼ぎ出してくれそうな勢いもあるが、それでさえデジタル関連収支の赤字を半分相殺するのがやっとだ。
最新の状況として2023年1~8月の合計を見ると、サービス収支赤字が2兆7198億円で、デジタル関連収支の赤字は3兆7984億円となっている。
インバウンド需要の急回復を受け、ヒト関連収支が2兆3329億円の黒字を計上したものの、それを上回るデジタル赤字にかき消された形だ。
海外への再保険料支払いの増大などで赤字幅の広がる「カネ関連」にも存在感があり、やはりインバウンド需要を柱とするヒト関連収支で黒字を積み上げても、サービス収支の赤字拡大を抑止するのは簡単ではないように思える。
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やっぱりアメリカに流れていく
赤字幅拡大の止まらないデジタル関連収支だが、やはり気になるのはその支払先。完全に正確とは言えないものの、統計から大まかなイメージをつかむことはできる。
米巨大IT企業が提供するクラウドサービスの利用料金支払いなどが含まれる「通信・コンピューター・情報サービス」(日銀レビューの5分類ではなく、従来のサービス収支の内訳項目)について、国・地域別の支払を見たのが下の【図表3】だ。
【図表3】通信・コンピューター・情報サービスの支払先。2023年については、1〜8月の合計値を用いた。
出所:日銀レビュー「国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化」より筆者作成
2022年の支払額およそ3兆円のうち、アメリカ向けが約1兆円と3分の1を占め、シンガポール(約4000億円)、オランダ(約2900億円)、中国(約2000億円)と続く。
容易に想像がつく通り、アメリカ向けの支払いが頭抜けていて、2017年の約4600億円から5年間で倍以上に膨らんでいる。今後も増加が予想され、急激な傾向変化はあまり想像できない。
ドル円相場動向を考える上で、アメリカへのサービス支払が増えていることの影響は、徐々に注目度を増していく論点ではないかと筆者は考えている。
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