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概要:[東京 30日] - 日銀の金融政策に関するさまざまな情報を集めた上で、考察を加えながら先行きの動向を予測していく「日銀ウォッチ」。経済指標では、日本の物価や賃金に関連するものが軸になる。また、要人発言では、植田和男総裁をはじめとする日銀政策委員会メンバー9人から出てくるメッセージの内容がどう変わるか変わらないかが、重要な材料になってくる。
[東京 30日] - 日銀の金融政策に関するさまざまな情報を集めた上で、考察を加えながら先行きの動向を予測していく「日銀ウォッチ」。経済指標では、日本の物価や賃金に関連するものが軸になる。また、要人発言では、植田和男総裁をはじめとする日銀政策委員会メンバー9人から出てくるメッセージの内容がどう変わるか変わらないかが、重要な材料になってくる。
海外の当局者や専門家による見立てが気になることもある。典型的な最近の事例は、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストであるピエール・オリヴィエ・グランシャ氏が7月25日にワシントンで行った記者会見の内容である。上野泰也氏のコラム。写真はワシントンで4月撮影(2023年 ロイター/Ken Cedeno)
とは言うものの、海外の当局者や専門家による見立てが気になることもある。典型的な最近の事例は、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストであるピエール・オリヴィエ・グランシャ氏が7月25日にワシントンで行った記者会見の内容である。
報道によると、グランシャ氏はこの記者会見で日本のインフレ動向に関し、上振れリスクが増していると明言。日銀は金融引き締めの開始を準備する必要があるとした。春闘の賃上げ率が高水準になるなどし、インフレリスクは上振れ方向とした上で、物価上昇率が目標である2%を上回って推移し続ける可能性をグランシャ氏は指摘。日銀に対しては金融政策を若干柔軟にするよう勧告し、イールドカーブ・コントロール政策(YCC)の修正も検討対象とするよう求めた。
その3日後、7月28日の金融政策決定会合で、YCCの運用柔軟化を日銀は決定した。この決定について、植田総裁は記者会見で「経済・物価を巡る不確実性が極めて高いことにかんがみますと、この段階でイールドカーブ・コントロールの運用を柔軟化し、上下双方向のリスクに機動的に対応していくことで、この枠組みによる金融緩和の持続性を高めることが適当であるというふうに判断した」と説明。物価の上振れリスクにも目配りした予防的な措置と位置付けた。
少なくとも外形的には、IMFのグランシャ氏の提言に沿う形で、日銀は異次元緩和を部分的に手直ししたと言える。IMFの担当者による日銀の金融政策運営に関する提言が、数日のうちに現実になって「予言者」的役回りを演じた過去の事例は、筆者の記憶にない。
<YCC撤廃からマイナス金利解除の道筋>
さかのぼって調べると、グランシャ氏は6月1日のロイターとのインタビューで、日銀はインフレ期待を目標の2%にするため超金融緩和を維持する必要があるとのベースの見解を示しつつも、物価上昇率が予想からオーバーシュートするリスクを警戒。物価が目標を上回る状態が長期化した場合に政策を引き締める準備を日銀はしておく必要があると、すでに指摘していた。
「一過性のものと思われていたインフレが一過性ではないことが判明した」という米欧の中央銀行の経験を踏まえ「日本でも同じような動きがある可能性がある」「そのため警戒する必要があり、インフレが過度に高まった場合に金融政策を引き締める準備をしておくことが必要だ」としたのである。
こうしたIMFの主張がどこまで日銀の動きに影響したのか、あるいは日銀との日頃のコミュニケーションを経てIMFの見解が固まっていったのかは、部外者である筆者にはわからない。いずれにせよ、海外の当局者が日銀に関して述べる見解にも注意が必要だとリマインドさせられる一件だった。
日銀の金融政策が正常化していく道筋として、IMFのグランシャ氏は「YCCの撤廃─マイナス金利の解除」というコースを描いている。6月の上記インタビューで同氏は、長短金利操作(YCC)を維持しながら金融引き締めを行うことは「非常に難しい」とし、まず、長期金利操作政策から離れ、引き締めの必要性が生じたときに短期金利を引き上げる方が安全との見方を示した。
日銀の内田真一副総裁が8月2日に千葉で行ったあいさつ(講演)で示した政策正常化の手順も、グランシャ氏が示した内容と同じだと理解することができる。
内田副総裁の説明によれば、YCCの撤廃は、2%の物価目標の持続的・安定的な実現を見通せる状況に至れば実行される。これに対し、マイナス金利の解除は政策金利の0.1%引き上げであり「実体経済面で需要を抑制することで、物価の上昇を防ぐことが適当」と判断される場合に行われる。当然、後者の方がハードルは高い。
<注目される内田副総裁の発言>
これに対し、政策当局で勤務経験がある海外有識者の中には異論もある。
イングランド銀行で金融政策委員を務めた経験もある、米ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長は8月16日の記者会見で、日銀の金融政策に関し、短期金利引き上げとYCC見直しは別々に決定されると予想。「YCC(見直し)は金融安定と、おそらくは為替相場の安定に関わってくる」とする一方、短期金利は与信条件に関連すると分析した。
その上で、日銀は「5割を越える確率で」年内に短期金利の引き上げに踏み切ると予測。一方、YCCの一段の柔軟化は24年1―3月期までに行われるとの見通しを示した。
国内の日銀ウォッチャーで、日銀が年内にマイナス金利解除に動くとみている向きは、現状では極めて少ない。また、マイナス金利解除が行われた後もYCCが続行されるとみている向きも、おそらく少数派だろう。
短期金利を引き上げた後もYCCを続行する場合には、指し値オペによって長期金利の過度の上昇を力ずくで押さえ込むことのできるツールが日銀に備わっているというメリットがある。
その一方で、長期金利のコントロールという手法を残すという点で、日銀の金融政策正常化、非伝統的な金融緩和手法からの離脱は中途半端だという批判の声も、おそらく出てくるだろう。
金融政策運営の「ゲームプラン」を日銀が描く上で、作戦参謀的な大きな役割を演じているのは、おそらく内田副総裁だろう。内田氏からこの先、出てくるメッセージの内容に微妙な変化はないか。金利市場だけでなく為替市場のプレーヤーも、注視が怠れない。
編集:田巻一彦
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。
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