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概要:[東京 8日] - 日銀は7月27─28日の金融政策決定会合で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の柔軟化を決めた。従来は、10年物国債金利の変動幅を「上下0.5%程度」としていたが、これを「目途」という緩い位置づけに変えた。
門間一夫 みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト
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[東京 8日] - 日銀は7月27─28日の金融政策決定会合で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の柔軟化を決めた。従来は、10年物国債金利の変動幅を「上下0.5%程度」としていたが、これを「目途」という緩い位置づけに変えた。
今回の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)修正については「わかりにくい」という声もあるが、日銀には考慮すべき様々な条件があり、単純な仕組みにできないのは致し方ない。その「様々な条件」とは何だったのか。門間一夫氏のコラム。写真は2016年9月、都内の日銀本店で撮影(2023年 ロイター/Toru Hanai)
その上で、原則として毎営業日実施する連続指し値オペについて、その利回りを従来の0.5%から1.0%へ引き上げた。これにより長期金利の絶対的な上限は、0.5%から1.0%へと引き上げられたことになる。
ただし、本則は引き続き「上下0.5%程度」のままなので、日銀はそれを念頭に置いて、国債買い入れの増額、指し値オペ、共通担保資金供給オペなどで長期金利を機動的にコントロールする。
「2%物価目標の持続的・安定的な実現を見通せる状況には至っていない」という日銀の判断は、これまでと変わってない。だとすれば、長期金利をあまり上昇させたくないというのが本音だろう。当面は長期金利が「0.5%程度」を大きく上回らないよう運用される可能性が高い。
<日銀が考慮しなければならなかった諸条件>
今回のYCC修正については「わかりにくい」という声もあるが、日銀には考慮すべき様々な条件があり、単純な仕組みにできないのは致し方ない。その「様々な条件」とは何だったのか。
第1に、国債市場の機能が再び大きく悪化するのを避けることである。YCCが国債市場に副作用をもたらしていることは、植田和男日銀総裁もかねてから認識している。国債市場の機能が悪化するのは、長期金利の市場実勢が上昇する時に、日銀がそれを特定の防衛ラインで無理やり抑えるからである。
それが起きた昨年12月から本年1月にかけて、国債市場の機能は著しく悪化した。春ごろからはある程度改善しているが、今後2%物価目標を達成する確度が高まった場合は、再び長期金利に上昇圧力がかかる。その場合でも12─1月の悪夢を繰り返さないよう、日銀はどこかで手を打っておく必要があった。
第2に、円安圧力を和らげることである。この春から6月にかけて、ドル/円相場は130円程度から一時145円近辺まで急速に円安となった。米欧と日本の金融政策の違いが改めて意識されたことが大きい。
こうした円安に対し、財務省は強い言葉で市場へのけん制を続けた。それ以上の円安は問題が多い、との判断に基づくものである。金融政策面でも何らかの工夫ができるなら、それが望まれる状況にあった。
第3に、長期金利の急上昇を回避することである。それゆえ、「金融政策の正常化」を連想させるような政策修正は、初めから問題外であった。植田総裁は、企業の賃金・価格設定行動に変化の兆しが見られるとしながらも「その芽を大事に育てていく」ことが重要との認識を示してきた。
異次元緩和の開始から10年以上が経過し、2%物価目標の達成のチャンスがようやく訪れた。「千載一遇のチャンスを拙速な利上げで逃した」と言われることだけは、絶対避けたいという気持ちが日銀にはある。海外経済を中心に不透明感もある中で、固定型の住宅ローン金利の上昇が目立てば問題になる。
第4に、YCCそのものは続ける必要がある。実は以上述べた状況に対応するには、YCCを撤廃し、より柔軟な枠組みで国債を買い続けて長期金利を抑えるのが、一番すっきりしたやり方である。
しかし、日銀は2%物価目標の達成に必要な時までYCCを続ける旨を、既に約束してしまっている。そのような約束自体にやや無理があったようにも思うが、約束である以上それを破るわけにはいかない。
<「1%」はYCCの存在証明>
以上の条件の中には相互に矛盾するものもあり、すべてを完璧にクリアすることはできない。だが、今回日銀が出した答えは、絶妙なバランスですべての条件にそれなりに配慮できていると言ってよいだろう。これにより今後、副作用が大きくなるリスクは軽減され、しばらく追加的な修正を施さずにYCCを続けられる可能性が高くなった。
日銀が繰り出したマジックは「YCCの撤廃はできない」という4番目の条件を「実態はほぼ撤廃だが形としてはYCCらしく見せ続ける」ことでクリアした点にある。
今回の修正の本質は「長期金利の厳格な天井を取り払った」ことであり、それに尽きると言ってよい。1%という「新たな天井に見えるもの」は、本当は作らなくてもよかった。
なぜなら、日銀は長期金利が1%まで上昇することなど、はなから想定していないからである。金利急上昇の回避という先ほどの3番目の条件を尊重する限り、長期金利の「本当の上限」をこれまでの0.5%程度から大きく引き上げるわけにはいかない。おそらく当面は0.6─0.7%程度、すなわち1%まで十分余裕があるあたりに、見えない「本当の天井」がありそうだ。植田総裁も記者会見で1%は「念のため」と説明した。
「本当の上限」があやふやな枠組を、もはやYCCと呼べるのかどうかは微妙である。それでも、1%という「絶対的な防衛ライン」を遠くであっても設定さえしておけば、よりYCCらしく見えるのは間違いない。「2%物価目標の達成に必要な時までYCCを続ける」という約束と矛盾しないように、よく練られたスキームである。
<それでも根本矛盾は抱えたまま>
日銀にとって当面心配なのは「円安圧力を和らげる」という2番目の条件が、この修正で十分にクリアできたと言えるのかどうかであろう。為替相場は日本側の事情だけで決まるものではないので、最後は日銀に運があるかどうかだが、とりあえずYCC修正のあと、ここまでは円安を押し返せていない。
もちろん、YCC修正がなければもっと円安になっていたかもしれないので、YCC修正の為替への効果がなかったとは言い切れない。ただ、「金融緩和の正常化ではない」「マイナス金利の解除はまだ先」という日銀の姿勢が明快で、長期金利も限られた上昇しか許されないのであれば、円安圧力が根強く残るのも当然である。
日銀が直面しているのは、円安を回避したいという2番目の条件と、金利上昇を回避したいという3番目の条件の、根源的な矛盾である。そして、日銀がなぜそこまで金利上昇を回避したいのかと言うと、2%物価目標達成の芽を絶対に摘んではならない、と考えているからである。日銀が為替と金利の板挟みになるのは、突き詰めれば達成が容易でない2%物価目標に原因がある。
約30年にわたり賃金も物価も上がらなかった国が、賃金も物価も毎年上がる国になるためには、並大抵ではない構造変化を必要とする。日本経済が持つ固有の力だけでそれを成し遂げようとしても難しく、外部要因の追い風を最大限に活用して初めて可能性が拓けて来る。実際、2%物価目標の達成に今少し近づいているのも、2022年を中心に起きた海外インフレと円安の影響である。
しかし、この1年強で円安には様々な不都合があることも広く認識されるようになった。最大の問題は、一部のグローバル企業が圧倒的な勝ち組となり、多くの中小企業や家計がコスト高で苦しむ分配面の不条理である。この種の不条理は政治に影響し、その経路を通じて日銀を悩ませる。
ただ、これは決して悪い悩みではない。わき目もふらずに2%物価目標のことだけ考えるより、視野を広く持って何が国民にプラスなのかを悩む方が、中央銀行のあり方として正しい。
これからの日銀の政策を占うには、あるいはすでにそうなのかもしれないが、賃金・物価の動向だけでなく為替が重要だとみておくべきだろう。
編集:田巻一彦
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラム向けに執筆されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*門間一夫氏は、みずほリサーチ&テクノロジーズのエグゼクティブエコノミスト。1981年に東京大学経済学部を卒業後、日本銀行に入行。86年に米ウォートンビジネススクール留学。調査統計局長、企画局長を経て、12年に日銀理事(13年3月まで金融政策担当、以降、国際担当)を歴任。16年に日銀を退職し、みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミスト。21年4月から現職。
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