ＡＴ１債、クレディ・スイスの衝撃耐え忍んだトレーダーに大きな利益

最近コールされたＡＴ１債の３月20日以降の平均リターンは約13％

トレーダーは今年残りの期間についてコールが全て行使されると予想

クレディ・スイス・グループのその他ティア１（ＡＴ１）債の価値がゼロとなった後の数日間、ＡＴ１債の市場は崩壊したとの観測が広がった。

投資家が心配したのは、急上昇する借り換えコストに直面した銀行が、初回の繰り上げ償還日に償還を見送りＡＴ１債の価格が暴落することだった。しかし、割安な債券を購入するチャンスを得た買い手が非常に高いリターンにあずかったことがここ数カ月で明らかになった。

ＨＳＢＣホールディングスやバークレイズなどの銀行は今年、ＡＴ１債の償還を続け、否定的な見方が間違っていることを証明。事実上のクレディ・スイス破綻で動揺した市場に落ち着きをもたらした。

欧州の銀行は、2023年中に初回の繰り上げ償還日が訪れる主要通貨建ての永久債の75％を償還している。トレーダーは今年の残りの期間についてもコール（繰り上げ償還）が全て行使されると予想している。

ブルームバーグがまとめたデータによると、最近コールされたＡＴ１債の３月20日以降の平均リターンは約13％。これは債券市場で異例の大きさであり、投資家がリスクの高い株式から得ることを望む利益に匹敵する。

アトランティコムニアムの調査責任者、ロマン・ミギニアック氏は「市場では市況が悪ければ銀行は借り換えないと思われがちだ」が、「銀行は債券保有者のことを考えており、これが変わるとは思わない」と話した。

ＡＴ１債に対する市場の懸念は昨年からあった。昨年は借り入れコストの急激な上昇によって一部の金融機関が償還を見送った。借り入れコストがあまりに高ければ、監督当局が銀行に借り換えを認めない可能性すら考慮されていた。

昨年９月と10月には繰り上げ償還期限を迎えるＡＴ１債が複数あり、コール発表のハイシーズンとなった。ＨＳＢＣとバークレイズ、ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行（ＢＢＶＡ）、カイシャバンク、アバンカ・コンポラシオン・バンカリアは、合計55億ドル（約7850億円）相当の償還を決定した。

確かに、今年の記録は無傷ではなかった。ドイチェ・ファンドブリーフバンクは償還を見送った。

各国・地域の中央銀行は、株主より先にＡＴ１債保有者に損失を負わせたスイス当局の決定を繰り返さないことを保証し、市場をバックアップしてきた。実際、多くのアナリストは今後のコールやリファイナンスの決定について、監督当局が寛大になると予想している。

ケプラー・シュブルーのクレジット調査責任者セバスチャン・バルテレミ氏は「米国の銀行とクレディ・スイスの混乱の後、欧州当局は投資家を安心させるため、欧州の銀行について自信に満ちたメッセージを発した」とし、ＡＴ１債の借り換えについて欧州当局が柔軟になるとの見方を示した。