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概要:[東京 19日] - 過去2週間で、日銀とその他主要中銀の金融政策に対するスタンスの違い、つまり「動かない日銀」と、「止まらないその他主要中銀」の差が鮮明になった。
[東京 19日] - 過去2週間で、日銀とその他主要中銀の金融政策に対するスタンスの違い、つまり「動かない日銀」と、「止まらないその他主要中銀」の差が鮮明になった。
過去2週間で、日銀とその他主要中銀の金融政策に対するスタンスの違い、つまり「動かない日銀」と、「止まらないその他主要中銀」の差が鮮明になった。
この間、豪中銀、カナダ中銀、欧州中銀(ECB)が利上げを行い、当社エコノミストは豪中銀、ECBについては、さらに追加利上げがあるとの予想に変更した。米連邦準備理事会(FRB)は予想通り据え置きだったが、メンバーの大半は今年少なくとも2回の追加利上げを予想するなどメッセージはタカ派的だった。当社はFRBが7月に25bpの追加利上げを行うとの予想に修正した。
一方、日銀は16日に金融政策の据え置きを決定した。日銀は2%インフレ目標の持続的達成にはまだ自信が持てない様子だ。この調子では、イールドカーブ・コントロール政策(YCC)終了どころか、短期金利引き上げに至るまで、日本はかなり長い間実質金利大幅マイナスという、異例なほどの金融緩和状態にとどまることになりそうだ。
インフレの基調を表しているはずの、生鮮食品とエネルギーを除いたコア消費者物価指数(CPI)の上昇率は既に前年比4%を超えている。
日銀が懸念するリスクは海外発の景気後退方向の要因が中心だが、今や海外のリスクは物価上昇率がなかなか鈍化せずに、主要中銀が追加的に数回にわたって利上げを行わざるを得ないことも考慮すべき状況となっている。
昨年11月に当社が2023年の見通しを示した際には、スイス中銀と日銀以外の主要8中銀全てが今年1─3月期に利上げを終了するという予想だった。だが、今では6中銀が7─9月期にも利上げを行うとの予想となっている。7─9月期で今度こそ利上げが終了すると言い切れるのだろうか。また、日銀は世界経済の後退を懸念しながら、ずっと動くことができず、完全に周回遅れになるつもりなのだろうか。
<金・主要通貨・株式で進む円下落>
円を取り巻く環境は、前例の無いほどの深い実質マイナス金利、前例の無いほどの額の貿易・サービス収支赤字、20年以上ぶりの他国との短期金利差拡大など、極端に悪化している。
こうした状況の中、円の価値下落が金やその対主要通貨、株式で進んでいるのは当然と言えるだろう。
金の円建て価格は16日、史上最高値を再び更新した。金の円建て価格は2020年に1980年のピークを上抜けてから上昇が加速しており、過去5年間で2倍になっている。これは円の価値が金に対して過去5年間で半分になったことを意味している。
過去2週間、主要通貨の中では円は独歩安だが、ドルも2番目に弱い。したがって、ドル/円の上昇は昨年11月中旬以来、約7カ月ぶりの水準に止まっている。
だが、スイス・フラン/円は1979年に付けた史上最高値にほぼ並びかけているほか、ユーロ/円は約15年ぶり、NZドル/円は約8年ぶり、英ポンド/円は約7年半ぶりの水準まで円安が進んでいる。
世界の政策金利加重平均値は、日銀が昨年12月にYCCのバンドを拡大した時から半年で50bp以上も拡大しており、現在、日本との金利差は460bp程度に達している。
円キャリートレードが活発化していた2005─2007年のピークは420bp程度であったため、既にその時の水準を超えており、ボラティリティが落ち着けば、これから円キャリートレードが活発化するだろう。ボラティリティはまだ2005─2007年当時ほどまでは低下していないが、低下基調にあり、かなりの低水準となってきた。
次の日銀金融政策決定会合は7月27─28日と6週間も先になる。その間、ジワジワと円キャリー取引が活発化し、円安が一段と進む可能性は高い。この7月最終週も先週と同じく、水曜日に米連邦公開市場委員会(FOMC)、木曜日にECB、金曜日に日銀の金融政策発表が行われる。先週と同じパターンとなった場合、円の価値下落がさらに進むことになるだろう。
<リンクする日本株高と円安、高い介入のハードル>
日経平均株価は1990年3月以来、約33年ぶりの水準まで上昇し、バブル時のピークに付けた史上最高値まであと15%程度に迫っている。これも株式という資産に対する円の価値下落も影響していると言えるのではないだろうか。
ここで、米ダウ工業株30種平均株価の円建て価格をみると、ほぼ史上最高値に並んでいる。独DAX指数の円建て価格も史上最高値を更新中で過去3年間で2倍になっている。
海外投資家の積極的な為替ヘッジ付き日本株投資もあってか、日経平均株価とドル/円の相関関係も次第に安定してきており、現状、日経平均株価が1000円動くとドル/円が1.6円動く関係となっている。バブル時の日経平均株価ピークと整合的なドル/円の水準は151円だ。
今後、世の中の目は日経平均株価の最高値更新に移っていくだろう。そうした流れに水を差しかねないドル売り・円買い介入を実行するのは難しいと考える。今回はドル/円が150円台に上昇しても円買い介入は行われないと予想している。
<注目される家計の円離れの行方>
実質金利の大幅マイナスは、家計の行動にも影響を与えると考えられる。これまで家計が金融資産の半分以上を円建て預金で保有していたのは、デフレ環境が長く続いた中で、それがある程度合理的だったからである。家計が全体としては合理的な行動を取るという前提に立てば、実質的に目減りしていく円建て預金をそのままにしておくことはないだろう。
日本の家計は1100兆円の円建て現金・預金を保有している。この一部が外貨にシフトしていくことを懸念し始めた時、160兆円しかない外貨準備が小さく見える。また、いつの間にか、160兆円は日本の貿易・サービス赤字の8年分でしかなくなっている。
今年の夏から秋にやってくるかもしれない円下落の波は、昨年の動きを上回る大きなものとなってしまうリスクをはらんでいるかもしれない。
編集:田巻一彦
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。
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