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概要:新型コロナウイルス危機やロシア軍ウクライナ侵攻など、いくつかの歴史的な出来事を経て、世界経済には大きな構造変化が生じているのだろうか。今後、大きな論議の的になりそうなテーマである。
[東京 26日] - 新型コロナウイルス危機やロシア軍ウクライナ侵攻など、いくつかの歴史的な出来事を経て、世界経済には大きな構造変化が生じているのだろうか。今後、大きな論議の的になりそうなテーマである。
新型コロナウイルス危機やロシア軍ウクライナ侵攻など、いくつかの歴史的な出来事を経て、世界経済には大きな構造変化が生じているのだろうか。上野泰也氏のコラム。写真は米ドルとユーロの紙幣。パリで2014年10月撮影(2023年 ロイター/Philippe Wojazer)
<世界経済の構造変化と2%目標の関係>
仮に、経済構造の変化が大きなものであるなら、経済活動の安定・維持という中央銀行の役割に関して言えば、主要国の多くが採用しているインフレ目標の2%という数字が適切なのかどうか、見直しをかける必要が生じる。
著名投資家ビル・アックマン氏のようにウォール街には、米連邦準備理事会(FRB)はインフレ目標を現在の2%から3%に引き上げるべきだと主張する向きがある。そうした考え方の根底にあるのは、端的に言うと、景気動向を物価目標達成よりも重視する考え方である。米国や欧州では、食品やエネルギーを控除したコアベースのインフレ率の粘着性(下げ渋り)が問題視されている。
仮にそれを乗り越えて、FRBの目標である2%に向けてコアインフレ率を無理に押し下げようとする場合、需要を押し下げて景気を悪くする度合いを大きくする必要がある。景気がリセッション(後退局面)入りする前提で言えば、それが深まることになる。それではまずいと考える論者は、コアインフレ率の押し下げは3%前後までで十分ではないかと考える。
そして、経済構造が変化したのだから、やや長いタイムスパンで目指すべきインフレ率の経路は従来の2%ではなく3%といった、もう少し高い数字でよいのではないかという見方が、上記の政策論とオーバーラップしてくる。
<ラガルド総裁が指摘した世界経済の5つの変化>
経済構造が大きく変化した可能性は、欧州中央銀行(ECB)のトップも公式に認めるところとなっている。
ECBのラガルド総裁は4月17日、ニューヨークの外交問題評議会で「分断されつつある世界における中央銀行」と題して講演した。
グローバル経済は変革的な変化に見舞われているとするラガルド総裁は、パンデミック、ロシアのウクライナ侵攻、エネルギーの武器化、突然のインフレ率加速、米国と中国の対立激化を列挙。
グローバルなサプライチェーン(供給網)は、以前に備わっていた柔軟性が失われて不安定化しており、同時に、地政学的な緊張が増す中で世界の多極化が進んでいると指摘した。これらは中央銀行の業務にも当然、大きな影響を及ぼしてくる。
中央銀行は需要サイドに働きかけて経済の安定維持を図るのが基本だが、供給サイドが常に不安定だと、低く安定したインフレ率を保つのは難しい。
また、中央銀行の独立性は引き続き欠かせない概念であるとしても、財政政策や構造政策といった政府が展開する施策との密接な関わり合い(相互依存)が、従来以上に重要になってくる。ラガルド総裁は、そのように主張を展開した。
<グリーンフレーションの影響>
上記の講演でラガルド総裁は考察対象に入れなかったが、気候変動への対応で脱炭素化の早期実現が模索される中、経済構造変化に伴うコストがインフレ率を押し上げることを意味する「グリーンフレーション」という言葉が最近注目されており、ECBではシュナーベル専務理事がたびたび言及している。
仮に、この「グリーンフレーション」が物価上昇率の基調を持ち上げるのであれば、2%という目標レベルの見直し論に、大いに関わってくる。
しかし、この問題で結論を出すのはあまりにも時期尚早だろう。今年3月に日銀副総裁を退任した若田部昌澄氏は昨年12月に行った講演で、この問題について次のような見解を述べていた。
「『グリーンフレーション』については、(中略)脱炭素化を負の外部性への対応と考えれば、これまで負担していないコストを負担することとなるので、コスト・プッシュ要因になりますが、この点はインフレ率を押し上げるのか、あるいは総需要抑制を経由してディスインフレ的に働くのか、自明ではありません。しかしながら、むしろ脱炭素関連の投資が盛り上がるならば、それは総需要を刺激するのでディマンド・プルによるインフレ要因にもなり得ます。その点では、『グリーンフレーション』が起きるかどうかは、コスト・プッシュの側面ではなく、総需要の動向が重要とも言えます」との見解は、少なくとも現時点では納得できる落としどころである。
新しい技術や製品は、初期段階ではコストが高い。けれども、量産されて普及すればコストは安くなるのがふつうである。再生可能エネルギー、産業構造の脱炭素化に関わる製品・部品なども、大きな方向感は同じだろう。政府による支援があればなおさらである。
また、中央銀行関係者による議論はまだほとんど行われていないようだが、チャットGPTのような生成AI(人工知能)の高度化が、世界経済、特に労働市場に今後及ぼし得る影響には、大いに関心を抱くべきだろう。
必要な人間の数が減る方向に作用する点は、賃金を押し下げる要因であり、インフレ目標引き上げを巡る議論にも関係してくる。
<米欧中銀は景気重視にシフトするのか>
インフレ目標である2%を見直すという点について、ラガルド総裁は深入りを回避。「現時点では2%としている中期物価目標を変更する理由は全くない」「(インフレ率が)この水準に達し、そこにとどまると確信できれば(変更を)議論できる」と述べるにとどめた。
米国では、パウエルFRB議長が昨年12月14日の記者会見で、インフレ目標引き上げを検討する可能性があるかと問われた際に「それは検討していない。いかなる状況下でも検討するつもりはない」「われわれはインフレ目標を2%に維持し、われわれが有する政策手段を使って、インフレ率を2%に回帰させる」と強調した。ただし、インフレ目標を改めて検証する「長期的なプロジェクト」が浮上する可能性はあるとも述べた経緯がある。
インフレ目標の早期変更を拒否するラガルド氏やパウエル氏の姿勢は、中央銀行の信認と関連している。仮に、目標を達成できていないにもかかわらず、「ゴールポスト」たる目標の数字を突然動かして、シュートが入りやすくする(インフレ目標の達成を容易にする)ようだと、それはインチキだとして、中央銀行が信頼を失いかねない。
したがって、近い将来にインフレ目標を明示的に引き上げる可能性は、少なくともFRBやECBの場合、ほとんどないとみるべきだろう。
むしろ市場関係者が注意して見ていくべきは、インフレ目標がまだ達成できておらず、達成できる確たる見通しも立っていないにもかかわらず、何らかの理屈をつけてその状態でよしとして、中央銀行が景気への過度の圧迫を回避する行動を取らないかどうかである。
特にFRBの場合は、「物価安定」と並列で「最大雇用」の法的責務も負っており、柔軟な政策運営を行いやすい素地がある。
また、金融政策変更の効果が実体経済に効果を及ぼすまでにはラグ(時間差)がある。このことは、現実のインフレ率がまだ十分低下していなくても、中央銀行が利上げを止めて様子見をそのまま長く続ける、さらには利下げ路線に切り替える理由を説明する上で、使い勝手が良い。
米国や欧州でコアインフレ率の低下ペースが鈍くても、FRB、そしてECBの順番で、利上げ局面は終了するだろう。
ドル/円相場について言えば、FRBの利上げ終了には、ドルの上昇力を減殺する意味合いがある。そして、平均して8かカ月半のインターバルで、利上げ終了の先には利下げが待っている。ドル安・円高の流れが早晩再開するだろう。
編集:田巻一彦
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。
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