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概要:先月、経営危機に陥ったクレディ・スイスをスイス政府が介入する形で救済したことで、金融市場の大混乱は避けられたのかもしれない。しかし、同業のUBSが30億ドルでクレディ・スイスを合併するというこの危機解決策は、スイスの経済と政治にとって「災いの種」を生み出したと言える。
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[チューリヒ 24日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 先月、経営危機に陥ったクレディ・スイスをスイス政府が介入する形で救済したことで、金融市場の大混乱は避けられたのかもしれない。しかし、同業のUBSが30億ドルでクレディ・スイスを合併するというこの危機解決策は、スイスの経済と政治にとって「災いの種」を生み出したと言える。
UBSが30億ドルでクレディ・スイスを合併するという危機解決策は、スイスの経済と政治にとって「災いの種」を生み出したと言える。写真はチューリヒの街並みとリマト川。3月21日撮影(2023年 ロイター/Denis Balibouse)
<打撃受けるスイスの中小企業>
真っ先に影響を受けるのは、輸出産業が多いスイス国内の中小企業だろう。スイスに拠点を置く食品のネスレや製薬のノバルティス、重電のABBといった巨大企業であれば、クレディ・スイスがなくなっても、喜んで相手になってくれる多くのグローバルな投資銀行から取引銀行をいくらでも選べる。だが、中小企業の選択肢はより少ない。
クレディ・スイスを取り込んだUBSの総資産はスイス国内総生産(GDP)の2倍を超える規模になると予想される。
Breakingviewsがスイス国立銀行(SNB、中央銀行)の今年1月のデータに基づいて分析したところでは、従業員10-49人の企業向け融資市場における「新UBS」のシェアは41%、従業員50-249人の企業向けでも39%に達する。
一方、同行の最も直接な競合相手であるスイス州立銀行20行余りの合計シェアでも、それぞれ34%と36%に過ぎない。
こうした競争環境の弱まりは、借り手にとってローンのコストが割高になるか、提供されるサービスの劣化につながりがちだ。スイス国内のみに事業基盤を持つ銀行は、輸出金融やシンジケートローン、債券発行といった複雑な金融サービスを提供できないかもしれない。
そうなると中小企業は、外国の大手投資銀行と取引せざるを得なくなる。しかし、外銀側は小口で潜在的なリスクが高めのこれらの企業との大規模な取引には、及び腰になるのではないだろうか。
さらに、地元エコノミストや議員がBreakingviewsに語ったのは、1社当たりの融資額が制限されるため、スイスの中小企業全体や起業家らにとって借り入れの難易度が上がりかねないという懸念だ。
銀行業界に十分な競争環境が備わらないと、最終的にはスイス企業の国際競争力が阻害される恐れがある。世界経済フォーラムとIMDビジネススクールがまとめた国際競争力ランキングで何年も首位を獲得していたスイスにとって、これは頭の痛い問題となってもおかしくない。
<渦巻く批判>
クレディ・スイス救済はほかの面にも影響をもたらした。ほとんどの納税者と地元エコノミストは、スイス政府とSNB、連邦金融市場監督機構(FINMA)の「三位一体」による今回の危機対応のやり方を好ましく思っていない。
特に気に入らないのは、約1万人に上る銀行従業員の雇用が危うくなっている点だ。スイス銀行協会は、当局の対応が妥当だったかどうか外部調査を行うよう要求。
議会は12日、象徴的な意味合いしかないとはいえ、政府保証を含めたクレディ・スイス支援策の承認を拒絶した。
スイス自由民主党のオリビエ・フェラー氏はこの支援策を巡る緊急審議の傍ら、Breakingviewsに「スイス政界は(当局の)クレディ・スイスに対する監督方法に不備があったのではないか、という考えに至っている」と話した。
スイスでは政治的な論争は滅多に起こらない。ただ、今年10月に連邦議会選挙を控える中で、クレディ・スイスの危機を巡る問題は重要な争点となり続けそうだ。
主要政党の政治家は、最大手行の自己資本比率基準引き上げや過大な賞与支払いの中止、あるいは投資銀行とリテール銀行業務の完全分離まで踏み込むような銀行業界への厳しい措置を講じるよう求めている。
また、政治家が事態を解決できなければ、直接民主制の国であるスイスでは国民が規制強化を発議する場合もある。実際、2013年に行われた国民投票では、企業トップの報酬決定について株主に幅広い権限を与える提案が採決された。
ここで重要なのは、スイスの規制当局が目的に沿った組織になっているかどうかだ。FINMAは2019年4月、発足から10年にわたる金融市場の監督態勢はうまくいったとの評価を明らかにした。
しかし、この間にクレディ・スイスに痛手を与えたアルケゴスやグリーンシルを巡る問題を含めて幾つもの危険の種がまかれていた。
だからこそ批判派は、FINMAが適切に機能していなかったとみなしている。元スイス国立銀行(SNB、スイス中銀)幹部で現在は大学教授のウルス・ビルヒラー氏は「状況が悪化するずっと前から(FINMAは)事情を把握していた」と主張する。
これに対してFINMA支援派の専門家が提案するのは、米国式の巨額制裁金を科す権限の付与や、調査のための人員拡充だ。
一部のグループは、スイスで「神聖不可侵」的存在となっているSNBにも非難の矛先を向けている。クレディ・スイスからの多額の資金流出が明らかになった昨年10月の段階で、SNBが無制限の流動性供給措置を通じて支援に入るべきだったという。
あるベテラン銀行家はBreakingviewsに「SNBこそが部屋の中のゾウ(誰もが問題だと分かっているのに誰も触れようとしないもの)だ」と言い切った。
スイスでこうした批判が起きるのは、たとえ公の場でないとしても異例なので、FINMAトップのマルレーネ・アムスタッド氏やSNBのトーマス・ジョルダン総裁が、このまま職務を遂行するべきかどうかという疑問が生じる。
スイスはどうしてこのような銀行危機を招いたのかを適切に検証すれば、同国は将来の危機予防に真剣だという印象を内外に与えることができるだろう。
もっとも、より漸進的な改革を求める人々に比べれば、当局を徹底的に糾弾している人は少ない以上、規制の枠組みや銀行経営の抜本的見直しが確実に実行されるとは言いがたい。
最後に、今回の危機はスイスがよみがえりつつある過去の亡霊と対決するための足場を弱くした可能性に触れておく。
米上院財政委員会が先月公表した報告書によると、クレディ・スイスは2014年に米当局と合意した司法取引に違反し、米国の富裕層の脱税ほう助を継続していたことが判明した。
UBSの株主は以前なら、ライバルだったクレディ・スイスの訴訟リスクなど心配する必要はなかったが、今はそういうわけにもいかない。
スイス当局による迅速なクレディ・スイス救済のおかげで、目先の混乱拡大を防ぐことはできたかもしれない。しかし、長期的に解決が難しい厄介な問題が残されたことが、これからどんどん明らかになっていくだろう。
●背景となるニュース
*クレディ・スイスが発行したAT1債のうち45億スイスフラン強相当を保有する投資家が21日、UBSによるクレディ・スイス救済合併に伴ってAT1債が無価値化された問題で、スイス金融当局を提訴した。
*スイス議会は12日、当局による1090億スイスフランの保証供与を含めたクレディ・スイス支援措置の承認を改めて否決。こうした議会の対応に実質的な影響力はないが、政府が主導したUBSとクレディ・スイスの合併について、国内で反対する機運が強まっている様子がうかがえる。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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