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概要:[サンペドロ(コートジボワール)/ロンドン 4日 ロイター] - コートジボワールでカカオ豆農家を営むエデュアルド・クアメ・クアディオさんは、貧しいままで一生を終えることになると諦めている。世界中でか
[サンペドロ(コートジボワール)/ロンドン 4日 ロイター] - コートジボワールでカカオ豆農家を営むエデュアルド・クアメ・クアディオさんは、貧しいままで一生を終えることになると諦めている。世界中でかつてないほど多くのチョコレートが消費され、原料の需要が高まっているにもかかわらずだ。
2019年にコートジボワールとガーナの政府が共同で導入した、農家の生活所得を保障するプログラム(LID)により、クアディオさんのような、カカオ豆生産上位国の両国の農家の生活が圧迫されていることが、データや生産者、貿易業者、業界の専門家らへのインタビューで分かった。
クアディオさんらコートジボワールの農家十数人はロイターの取材に応じ、収入はプログラム開始時に約束されていた金額はおろか、政府が設定した出荷額さえも大幅に下回ると明かした。
「決められた価格が守られていない。この稼ぎでは何もできない」
世界最大のカカオ輸出港があるコートジボワール西部サンペドロから29キロの場所にある自身の小さな農地で雑草を刈りながら、色あせたTシャツを着たクアディオさんは嘆いた。
業界専門家11人は、こうした状況に至った原因として、生産余剰により世界中でカカオの価格が低迷したことや、チョコレート会社や商社・仲介業者がマージンを守ろうとしていることを挙げ、政府のプログラムには供給管理の仕組みがないなどの「本質的な不備」があったと指摘した。
児童労働や貧困、森林破壊が問題視されてきたチョコレート産業では、最近では倫理的なプロセスでチョコを生産しようとする機運が高まっている。農家の収入を増やすどころか保障さえできていないLID(所得適正化のための補償金)の失敗は、こうした流れに打撃となっている。
クアディオさんがカカオ農家を続けてきた40年間のうちに小規模農場が増え、コートジボワールに劇的な変化をもたらした。輸出経済の急成長に拍車をかけた一方、かつて豊かだった熱帯雨林はほぼ全て失われた。
耕作地が拡大するにつれ、カカオの供給量は世界的なチョコレート需要を度々上回るまでに増加。カカオ豆の価格はほとんどの年で変動せず、低いままだ。
活動家2人と大手商社に務めるトレーダー1人の推測によれば、LIDが導入されているにもかかわらず、コートジボワールの約3分の1のカカオ農家が得ている対価は政府が設定した最低価格に届かないという。
LIDでは、世界のカカオ価格に1トン当たり最低400ドル(約5万3000円)の生活賃金保障金を上乗せすることで業界と合意していたが、この目標もおおむね達成できていない。世界中のバイヤーが、これまで長年支払ってきた西アフリカ産の高品質カカオに対する「産地プレミアム」を引き下げる対応を取ったためだ。
コートジボワールのカカオ産業担当当局は、政府が年に2度調整する正規出荷価格を複数の仲介業者が支払っていないことを認めた。ただ、推定被害規模についての質問には回答しなかった。
スイス食品大手ネスレや米チョコレートメーカー大手ハーシーは、LIDで求められる生活賃金保障金を上乗せして支払ったと回答。スイスのリンツ&シュプルングリー、伊フェレロ、米マースは、LIDに加え、各社の持続可能プログラムの一環でさらなる金額を上乗せしたと答えた。
マース社は「価格設定だけが答えではない」とし、農家の収入不足を埋めるためには「新しい考え方」が必要だと述べた。LIDの導入後、別途行われてきた産地プレミアムが減額されたことについても尋ねたものの、返答した企業はなかった。
<生活収入>
コートジボワールとガーナ両政府は、ハーシーやバリーカレボー、カーギルといったカカオ豆・チョコレートを扱う大手企業を後ろ盾にLIDを導入した。
コートジボワールとガーナは、両国合わせて世界全体のカカオ豆の3分の2を生産しており、政府機関が流通を管理している。両国は400ドルの生活賃金保障金を上乗せすることで税収を増やして非常用ファンドを作り、世界全体で価格が低下した場合でも農家の生活収入保障に十分な正規出荷価格を設定できると期待した。
だが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)が需要に影を落とし、緩衝策が整う前に国際的なカカオ価格が下落。コートジボワールとガーナは、プレミアムを上乗せしても出荷価格を目標水準にまで引き上げることができなくなった。
ロイターが集めたデータによると、LIDが導入された2019年以降、正規出荷価格がコートジボワールの適正所得目標にあたる1キロあたり1000西アフリカCFAフラン(約1.70ドル、約220円)に達したのは、2020/21年度の1度だけだった。
LIDを主導した両国政府の共同組織「コートジボワール・ガーナ・ココア・イニシアチブ(CIGCI)」によれば、時を同じくして、世界の主要な商品貿易会社が国別の産地プレミアムを引き下げる動きを見せ始めた。
8人のカカオ貿易業者によると、実際にはチョコレートメーカーがLIDと産地プレミアムの両方をカバーできるほどの金額を支払っていないために、急激な損失を避けるべく産地プレミアムを下げるよう交渉したという。
あるチョコレートメーカー大手の幹部は匿名を条件に、2種類の割増金を払うことは約束できないと述べ、LIDには見直しが必要だとする見方を示した。
コートジボワールとガーナは、企業側がどちらのプレミアムも支払うべきだとしてLIDの構造的な問題を否定。CIGCIは過去2年間で産地プレミアムが150%減少し、ゼロに近い状態だとするデータを公表している。
CIGCIのアレックス・アサンボ事務局長は「(LIDの)主な課題は、市場がLIDを利益を侵害し得る要素として見ていることだ」と指摘した。
ロイターはバリーカレボーやカーギルといった世界的なカカオ貿易業者に対し、LID導入後の産地プレミアムの減少について質問したが、直ちに返答が得られなかった。
プレミアム未払いのチョコレートメーカーの名前を公表するとの警告も水面下で行われたものの、各国は自国にとって最大の買い手との対立が行き過ぎることに慎重になっているようだ。
代替案としてアサンボ氏は、CIGCIが業界関係者を集めて価格と市場に関するワーキンググループを設立したと表明。持続的な「価格メカニズムの解決策」を見出すことを目標に、4月に提言する予定だという。
ネスレ、フェレロ、ハーシー、マースの4社は、最新の取り組みを支持すると回答した。
<前向きな道のりか>
コートジボワールの田舎から買い付けを行う仲介業者は、カカオ豆を仕入れる際、政府が決めた出荷価格を下回る金額で購入しているという。品質上問題がある分や、輸送・梱包にかかる費用を差し引いているという。
「生産者がこの価格を受け入れているのは、他に選択肢が無いからだ。少しでも収入があるか、何もなくカカオ豆とともに腐っていくか、そのどちらかだ」とコートジボワール中部ダロアのバイヤー、アリ・ディアラソウバさんは言う。
コートジボワールのカカオ産地7地域にいる18人の農家は、1キロ当たり825西アフリカCFAフランと設定された昨シーズンの出荷価格よりも15ー20%低い金額を受け取っているとロイターに明かした。
出荷価格を守るため、コートジボワールは昨年からカカオ豆の原産地が追跡可能なカードの発行や、輸出業者への直接電子決済サービスを開始。政府のコーヒー・カカオ評議会(CCC)のイブ・ブラヒマ・コヌ事務局長はロイターに対し、これまでに30万枚のカードが発行され、仲介業者の値下げ圧力は弱まってきていると話した。
「(農家は)政府が保障した通りの金額を受け取ることができる。農家に直接支払われることになる」
だが、新しく導入されたカードでは、余剰カカオ豆が国際価格を押し下げているという長期的問題は解決できないだろう。
カカオ農家が適正な対価を得られるよう活動する団体VOICEネットワークのアントニー・ファウンテン代表は、 企業責任を追及し続けることも重要とした上で、カカオ豆の供給量をコントロールしない限り、いずれにせよ失敗に終わる運命にあると指摘する。
「価格にだけ介入して、供給管理はしないなどありえない」と、同代表は話す。
この点について、CIGCIのアサンボ氏は、「他の産出国に対する投資がますます増えてきている」ことから、コートジボワールとガーナは作付面積を減らすことにリスクを感じていると分析。供給管理は世界的な問題だと付け加えた。
国際ココア機関(ICCO)の産業データによると、コートジボワールのカカオ生産は2020/21年期に記録的水準に増加。今シーズンの世界全体の生産量はひっ迫すると見込まれている。
毎年コートジボワールが生産するカカオ豆約200万トンのうち20─30%が、森林保護地区内で違法に栽培されている。そうした場所で働く推定130万人の多くが子どもだ。
コートジボワールの農家、カリム・バンバさんは耕作地の拡大について、生計を立てる道が他になかったからだと話す。
「カカオを植える、やり方を知っているのはそれだけだ」
昨年のコートジボワールの森林破壊の増加率は、LID導入の初年度にあたる2020ー21年に比べて高いことが分かった。米コンサルティング会社マッキンゼー傘下で、コートジボワール当局と連携しているビビッド・エコノミクスのデータをロイターが確認した。
(Ange Aboa記者、Maytaal Angel記者)
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