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概要:2023年の日本経済にとって「大穴」ともいうべきリスクは、消費者物価指数(CPI)上昇率の上振れかもしれない。引き金は、岸田文雄首相が提唱する「物価上昇率を超える賃上げ」だ。実現すれば企業にとってはコスト上昇、消費者にとっては購買力の引き上げにつながり、日銀の物価目標である2%を大幅に突破して3%台で着地するシナリオの可能性もゼロではなくなる。
[東京 6日 ロイター] - 2023年の日本経済にとって「大穴」ともいうべきリスクは、消費者物価指数(CPI)上昇率の上振れかもしれない。引き金は、岸田文雄首相が提唱する「物価上昇率を超える賃上げ」だ。実現すれば企業にとってはコスト上昇、消費者にとっては購買力の引き上げにつながり、日銀の物価目標である2%を大幅に突破して3%台で着地するシナリオの可能性もゼロではなくなる。
経団連の十倉雅和会長は5日の会見で「物価高に負けない賃上げを会員企業にお願いしている。これはもう企業の責務」と述べ、経営者側がかなりの賃上げ率を容認する姿勢を示した。写真は2021年8月、スカイツリーから見た東京都内の景色(2023年 ロイター/Marko Djurica)
岸田首相にとって5月に広島市で開催する主要7カ国首相会議(G7サミット)は、「世界の岸田」をアピールする絶好の機会だ。その直後に衆院解散、総選挙に持ち込んで勝利すれば、長期政権につなげられる可能性も出てくる。しかし、物価の上振れは厄介な難問になる。日銀にとっても長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)を骨格とした超緩和策の解除問題が浮上しかねず、物価上振れは政府・日銀の政策的な急所になりかねない。
年明けの円債市場では、海外勢を中心に日銀が一段の緩和修正に動くのではないかとの思惑が根強くあり、4日には超長期ゾーンの金利が上昇。5日に入札が行われた10年国債のクーポンは、8年1カ月ぶりに0.5%に引き上げられ、最高落札価格が0.5%と7年半ぶりの水準に上がった。市場のムードは徐々に変化している。
他方で、緩和修正をはやす海外勢も、実際に日本のCPIが上昇を続けて日銀が本格的な金融緩和解除に動くとみているわけではなく、昨年12月の「日銀ショック」を受けた対応の色彩が濃いと言える。
国内の民間エコノミストの多くは、2023年度のコアCPI上昇率が日銀予想の1.6%ないし2%までの間になり、22年11月全国CPIにおける3.7%上昇から減速すると想定している。
<大幅賃上げに積極的な政府と経済界>
だが、その想定には大きな落とし穴が待ち受けていると筆者には見える。今年の賃上げが、大方の予想を超えて大幅になる可能性が出てきているからだ。
岸田首相は4日の伊勢神宮参拝後の会見で「インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と、賃上げ率の大幅な上昇に向けて踏み込んだ発言を行った。
経団連の十倉雅和会長は5日の会見で「物価高に負けない賃上げを会員企業にお願いしている。これはもう企業の責務」と述べ、経営者側がかなりの賃上げ率を容認する姿勢を示した。
また、新浪剛史・経済同友会代表幹事が社長を務めるサントリーホールディングスは昨年12月、今年の春闘で6%の賃上げを目指す方針を明らかにしている。新浪氏は企業の成長の原動力は人材であるとし、大幅な賃上げの必要性に言及していた。
<賃上げ促す深刻な人手不足>
物価高への批判をかわしたい政府だけでなく、大企業の経営者が賃上げに積極的な背景には、日本国内における少子化トレンドの定着によって、人手不足が深刻化している現状がある。特に企業の生産性向上に不可欠なデジタルトランスフォーメーション(DX)に必須のITスキルを持った人材は奪い合いとなっており、高い賃金を提示できない企業は、DX関連の設備投資増強で後れを取ってしまうことになる。
優秀な人材の囲い込みは理科系人材に限定されず、多方面で発生しているため、6%賃上げを表明したサントリーと同業ないし関連する業種の企業は、今年の春闘で大幅な賃上げに踏み切らざるを得なくなるだろう。
この傾向は、大企業・製造業に限定されず、非製造業にも波及すると予想される。特に旅行、宿泊、外食、交通、運輸などはすでに人出不足が深刻化しており、大幅な賃上げなしで人材を確保するのは難しくなっている。
<賃上げで動揺する物価上昇メカニズム>
こうした情勢を踏まえると、一部の大企業が突出した賃上げ率を提示するだけでなく、日本企業特有の横並び意識も働いて、相当数の企業が3─4%台の賃上げ率を提示する可能性があるのではないかと筆者はみている。
そのことが、日本の物価上昇メカニズムを大きく揺さぶるパワーになるかもしれない。
1つは、企業のコスト増からのルートだ。賃上げによるコスト増を生産性の上昇でカバーできない場合、製品価格の値上げで対応することにならざるを得ない。特に業界シェアが下位の企業は、見劣りしない賃上げで膨らんだコストを価格転嫁で解決したいということになりやすい。
2つ目は、賃上げで消費者の購買力が相応に補てんされ、値上げした製品を買う余力が生まれることだ。言い換えれば、値上げが通りやすくなるという現象が起きる。
<注目のサービス価格、CPI押し上げも>
政府と日銀は、これまで賃上げでプラスの景気循環が生まれると説明してきた。だが、刺激が強過ぎて日本でも物価上昇の勢いが過熱するリスクが生まれるのではないか。今年後半になっても、コアCPI上昇率が3%台で推移したり、さらに4%に上昇する月が多くなったりすれば、23年度に3%台で着地してしまうシナリオの実現可能性はゼロではないと指摘したい。
その理由として、2つの要因を挙げる。1つは、サービス価格上昇の可能性だ。2022年11月CPIにおいて、コアCPIは前年比3.7%上昇だった。このうち財は同6.7%だったのに対し、サービスは同0.7%にとどまった。
今年4月からは、JRや私鉄、バスなどの交通機関の料金が上がり出すだけでなく、大学授業料なども引き上げられる。先に説明したように、製造業と人材を奪い合う非製造業の企業も賃上げで対応せざるを得ず、今年はサービスの値上げが目立ってくると予想する。サービスのウエートは49.5%なので、サービス価格が上がり出すと、まさかのCPI上昇率4%台が長期化するという展開もあり得ることになる。
2つ目は、企業に値上げをちゅうちょさせる心理的な壁がなくなったことだ。値上げすると売上減少に直結し、業績悪化につながるとの恐怖心が2022年の値上げ局面でなくなった。その上、これまでの原材料価格値上げと円安で企業が負担したコスト増分を転嫁し切れていないという現実がある。今年前半は、値上げが繰り返されることになるだろう。
<テールリスク、不都合な現実登場か>
もし、日本のCPI上昇率が4%台でしばらく推移したら、岸田政権はかなりの困難に直面するだろう。大企業並みに賃上げできない中小・零細企業に勤務する従業員や年金生活者は、実質所得のマイナスが大きくなり、生活が苦しくなってしまうからだ。
岸田政権は広島サミット後に支持率が急上昇すると見込んでいるはずだが、「帳消し」になっているかもしれない。衆院選を意識しているなら、低所得者向けの給付を打ち出す可能性もあるだろう。ただ、野党から物価高を攻撃されれば、火の粉を振り払うのにかなりの労力を費やすかもしれない。
日銀は、足元の物価上昇は一時的との立場を継続してきた。しかし、2%を大幅に超える状況が長期化しそうになった時、YCCを骨格にした超緩和策をどうするのか、という問題に直面する。
景気が良ければ、緩和修正への世論の理解を得られやすいが、世界経済の情勢次第では異論が出ている可能性もある。
想定外の物価上昇は、政府・日銀にとって、非常に厄介な問題を抱え込むことになるシナリオであることを予め、多くの市場参加者が知っておく必要があると思う。
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