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概要:[東京 2日] - 2022年10月に152円に迫ったドル/円は、インフレ鎮静化を示唆する米消費者物価指数(CPI)発表を受けて11月に急落した。米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めペースが緩むとの期待が市場では台頭。米金利が低下し、2022年のドル高・円安をけん引してきた日米金利差が縮小に転じたことがドル/円反落を促した。
高島修 シティグループ証券チーフFXストラテジスト
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[東京 2日] - 2022年10月に152円に迫ったドル/円は、インフレ鎮静化を示唆する米消費者物価指数(CPI)発表を受けて11月に急落した。米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めペースが緩むとの期待が市場では台頭。米金利が低下し、2022年のドル高・円安をけん引してきた日米金利差が縮小に転じたことがドル/円反落を促した。
2022年10月に152円に迫ったドル/円は、インフレ鎮静化を示唆する米消費者物価指数(CPI)発表を受けて11月に急落した。写真は2013年2月、都内で撮影(2023年 ロイター/Shohei Miyano)
さらに2022年12月は、日銀が予想外の政策調整(イールドカーブ・コントロールの変動幅拡大)に踏み切ったこともあって、130円近くまで値を崩す場面もあった。
この下落で、2022年前半に見られたドル/円の中長期的な上昇モメンタムの衰退が一段と明確になった。むしろ2023年以降は下落局面入りする状況にさえ転じつつある。
この間に市場で高まったインフレやFRBなど各国中銀の金融政策に対する楽観論は、行き過ぎと筆者には思える。数カ月単位では金融引き締めに対する警戒感が再燃。米金利が改めて上昇に転じる中で、米株などリスク資産も再び調整色を強め、為替市場では米ドルが全般的に反発するリスクが大きいと筆者は見ている。ドル/円がいったんは140─145円付近へ戻っても驚きではない。
<最近のドル安、背景に原油・資源価格の調整>
だが、筆者の認識では、このところの米ドル安は2022年半ば以降の原油・資源相場の調整が、為替市場の全体環境を大きく転向させてきたことを暗示するものだ。
一時的に米金利上昇やリスク回避的な米ドル高が再燃しても、それはさらなる原油・資源相場の調整を促すことになるだろう。
ドル/円回復は次第に力強さを失い始め、最終的には、2023年のどこかでは円高方向へもう一段階げたが外れ、125円前後までドル安・円高が進行する場面が出てくるとにらんでいる。
<モメンタム低下>
ドル/円の強気モメンタムの衰退を指摘したが、筆者が日頃からモメンタム計測の指標としてウォッチしているのはRSI(相対力指数)であり、中長期モメンタムの計測には通常、13週の週足を用いている。その週次RSIは5月以降、右肩下がりのトリプルトップを形成し、11月以降の下げでは分水嶺となる50%を下回り、買い局面から売り局面に転じた可能性をシグナルしている。
興味深いのは、こうした中長期モメンタムの衰退が、2011年頃からドル/円が10年かけて75円前後から150円前後へ上昇した後に生じていることだ。つまり10年でドル/円が2倍になったタイミングで、今回のモメンタム衰退は始まった。
過去しばしば、長期のドル/円トレンドは2倍や2分の1となったところで転換点を迎えたことがあった。このことを思うと、今回の150円前後からのドル/円下落、それに伴う中長期モメンタムの衰退は、なにやら妙に思わせぶりな暗示のように思えてくる。
<リアルマネーのドル買いに変化>
さて、2021年初に102円台だったドル/円は2022年10月には150円を超える上昇となったが、その根底にあったのは、対ユーロなどでの全体的な米ドル高だった。
米金利上昇に伴った日米金利差拡大がドル/円上昇に拍車をかけた格好となったが、実はユーロなど欧州通貨、豪ドルなど資源国通貨は金利差との相関を失っている。2022年、為替相場全体を俯瞰(ふかん)すると、金融政策や金利差では説明しがたい米ドル高が進んできた。「金利差拡大によるドル高・円安」説に固執し過ぎると、全体像を見間違える。
この間、筆者が勤務するシティグループのフロー・インデックスを見ると、目立っていたのがリアルマネーと呼ばれる欧米の長期投資家の米ドル買いだった。そのすう勢的な規模感は、ヘッジファンドなど短期投資家をはるかに凌駕(りょうが)するものだった。
リアルマネーによるそうした米ドル買いの理由を特定することは難しいが、筆者は世界的に米国債など安全資産、米株などリスク資産がともに著しく下落する異様な金融環境下で、資産価格の下落リスクを(部分的に)ヘッジする目的で米ドル買いが欧米の長期投資家を中心に行われていたのではないかとにらんでいる。
と言うのは、生保や年金など日本の長期投資家がこの間、過去に行った海外投資を大規模に処分しており、過去最大のリパトリエーション(日本への資金回帰)を行っている。我々のフロー・インデックスで見る米ドル買いの増加は、欧米リアルマネーを主体とするものだった可能性が高い。
しかも、米国の公式の証券投資統計では2021年後半、海外から新規の米国投資は減っていた。従って、我々のフロー・インデックスが示すリアルマネーの米ドル買いは何らかのヘッジ目的であった可能性をうかがわせる。
<変調するドル高環境>
その資産価格の下落はFRBをはじめとした各国中銀の金融引き締めを反映したものであったが、その底流あるのは今や歴史的ともいえる世界的なインフレだ。2020年のコロナ危機対応で大規模な財政刺激策が講じられ、中央銀行の金融緩和がそれを支援したことがその根源的な原因だ。
しかも、2022年はロシアによるウクライナ侵攻で原油や天然ガスなどエネルギー資源が高騰。これが供給サイドからインフレ圧力をあおることになった。だが、2022年半ば以降はその原油・資源高に一巡感が生じ、その後は価格調整が進んでいる。
そうした中で、米CPIなどがインフレ鈍化を示すことになり、FRBなど各国中銀の金融引き締めへの警戒感が後退。米国債など安全資産には底入れ感が生じ(金利が低下し)、欧米株や新興国市場などリスク資産も反発色を強めることになった。
こうした中でドル/円のみならず、これまで逃避通貨的に買われていた米ドルが全面的に反落することになった。この間、我々のフロー・インデックスではリアルマネーによる米ドル売りが目立っている。インフレ懸念の後退に伴い、資産価格下落への警戒感が緩み、これまでに構築してきた為替市場における米ドル買い持ちポジションの削減に動き出した可能性を感じさせる。
原油・天然ガスの下落は今後、円安やユーロ安のもう1つの底流となっていた日本やユーロ圏など資源輸入国の貿易収支の改善につながるはずだ。これも円やユーロの反発、その反面での米ドル安を後押しするだろう。
特にドル/円では、2022年、オプションを用いた中小の輸入企業の長期ドル買いヘッジが急激なドル高・円安でノックアウトされた(ヘッジ取引が消滅)。それを復元するためのドル買い需要がさらなるドル高・円安を生むという循環メカニズムを生んだ。
だが、そうした中小企業の長期ヘッジ復元も相当に進み、足元ではドル買い需要が顕著に衰えてきている。このことがこの数カ月間、げたが外れたかのようにドル/円が急落してきた1つの理由だろう。
<リスクシナリオの点検>
冒頭で指摘したドル/円の上昇モメンタム衰退は、こうした需給環境の変化に裏づけられたものだ。筆者はもともと構造的には円安論者であり、超長期ビューは引き続きドル高・円安だ。ただ、構造論はその時々の需給の裏づけを欠いては「絵に描いた餅」となる。2023年を展望した中長期の視点では、ここで論じてきたモメンタムや需給の変化などをより重視し、ドル安・円高リスクを警戒するのが妥当ではないかと考えている。
もちろん、米金利が既にピークアウトしたかどうかは、まだ確信が持てず、悩ましいところだ。上記の通り、FRBなどの金融引き締め観測が再燃するようだと、米株の再調整を伴いながらリスク回避的な米ドル高が再燃することもあるだろう。
ただ、原油・資源相場の調整が進んできたことで、円安やユーロ安の底流にあった日本や欧州の貿易赤字は縮小することが展望される。
米金利上昇に対する米ドル高で反応する感応度は次第に低下し、むしろ米金利低下に対して米ドル安で反応する感応度が上がっていくのではないかとみている。その見方が正しければ、長期の観点ではこの1年目立った米ドル高や円安の修正がより明確になっていくと思われる。
もう1つ、注視しなければならないのが、ゼロ・コロナ政策の緩和に動いた中国の情勢だろう。感染拡大で、にわかに高まった楽観論が修正される場合、短期的には円安要因として消化されやすいだろう。ただし、その結果、原油・資源相場のさらなる調整が促され、世界的にもインフレ鎮静化につながれば、結果的には円高を支援する要素となってくるはずだ。
反面、予想以上に強い回復を中国経済が見せた場合、原油高とインフレ懸念の再燃を通じて、米金利の一段の上昇や米株などリスク資産の調整が予想外に、2022年と同じようなドル高・円安を促すことになってもおかしくはない。
編集:田巻一彦
*12月22日までの情報に基づいています。
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。
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