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概要:Googleの幹部が会議で、自社でChatGPTのようなチャットボットの構築を否定する発言をしたことが注目を集めています。チャットボットは検索の脅威にならない、という真意はどこにあるのか。AI研究者は2つの見立てがあると語ります。
ニューヨーク・マンハッタンのグーグルオフィス。
Alena Veasey / Shutterstock
グーグルの幹部で、Google Researchの上級副社長ジェフ・ディーン氏が、ChatGPTを念頭にした「会話型AI」を開発するつもりがないと話したと報じられた。ディーン氏が発言したこの会議には、親会社アルファベットのサンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)CEOも出席していたという。
報道によると、その主な理由は、
チャットボットが検索に代わるとは思えない
同社にとっては、OpenAIのようなスタートアップよりも「風評リスクが大きい」
というものだったという。
この記事を読んで、筆者の頭に真っ先に浮かんだのは、2005年ごろにある大手広告代理店を訪問したときのエピソードだ。
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「ChatGPT」はグーグル検索を超えられるのか? AIチャットボットが乗り越えるべき課題を専門家が指摘
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「みんなが使っている技術が正しい」のか
当時、ある広告代理店の「会社で一番デジタルに詳しい」という戦略担当者に、
「これからの時代、テレビなんか誰もみなくなりますよ。グーグルのような検索エンジンが台頭してきて、動画もやがてはネットに移行していくと思います。あなたがたはどう対応しようと考えていますか?」
と聞いてみたのだ。
2005年といえば、YouTubeは創業したばかり。グーグルに買収されるのはその翌年のことだ。筆者の質問に、広告代理店の戦略担当者は、
「私たちは全てのテレビ局の広告枠を押さえている。いわば広告業界の地主なのだから、むしろネット業界が頭を下げにくるべきではないか」
という趣旨の言葉で答えた。
それから15年以上が経った。
テレビは相変わらず続いているが、かつてのような勢いはない。
広告業界では、沈まぬ太陽と思われた広告代理店すらも、デジタル変革に苦しみ、一時は過去最大の赤字となるほどになった。
画像生成AIで作成した「Chatbotと都市」。
作成:Business Insider Japan
この話の教訓は、いくつかある。
まず、会社が大きすぎて、会社がうまくいきすぎていると、「何も考えないのが最適」という戦略に陥りがちであるということ。
何かしてマイナス評価を得るくらいなら、何も考えずにのらりくらりと過ごす方がいいという処世術に至る。
何もしていない社員ばかりだと、そもそも誰を上に引き上げるか、その差すらつけられなくなる。
挑戦することのリスクが過大評価されすぎ、守りに入った結果、「有名な会社」「有名なクリエイター」「有名な学者」といった無難なものばかりを選択するようになる。
IT企業も同じだ。「新しくてよさそうな技術」よりも「みんなが使ってる技術」が一番正しい。失敗を最小化しようとすれば自動的にそうなる。
グーグルはなぜ「ChatBotをつくらない」と言うのか
OpenAIのChatGPTの公式サイト。
撮影:Business Insider Japan
ここで冒頭のグーグルに話を戻そう。
グーグルが、わざわざ社内向けに「チャットボットなど取るに足らない」というメッセージを発信しなければならないほど追い込まれている、というのは興味深い。
世界で最も多くのリソースを人工知能研究に投資しているであろうグーグルが、ある意味で人工知能の可能性を否定するような発言をしているからだ。
この発言をどう捉えるか。二つの意味が考えられると思う。
一つは、「それほどまでに社内に動揺が走っている」ということだ。
シリコンバレーはいま、大混乱に陥っている。イーロン・マスクのTwitter買収と大量リストラを皮切りに、ここぞとばかりにいろいろな著名企業がスリムになろうとし始めている。
先ほどの例で言えば、「なにもしないのが最善」に近い規模の会社において、社員はなにもしなくても増え続ける。社員を増やすモチベーションは会社にはなくても現場にはある。
現場は現場で、「領地」を増やさなければならないマネージャーがたくさんいるからだ。テック企業における「領地」とは、すなわち人的リソースだ。
自分が管理する部署に何人のスタッフを抱えているかは評価基準の1つであり、パーティーで出会う同業者に対するマウンティングにも使える便利な指標だ。
いまやIT企業の経営幹部が、社員が多すぎると考えていることは、メタ(Facebook)やアマゾンをはじめとするリストラの嵐をみればわかる。
グーグルはいまのところ、大規模なリストラにまでは至ってないが、広告収益の大幅な減益を背景に危機感を募らせていることは想像に難くない。
社員の動揺を抑えるために、あくまでも方便として「チャットボットは検索のかわりにならない」と言っているのだとしたら、まだ救いようはある。
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グーグルが「ChatGPT」のようなチャットボットを作らない理由…全社会議で幹部が従業員に説明
かつては「検索なんて必要ない」と言われた時代があった
アルファベットのサンダー・ピチャイCEO。
Jerod Harris/Getty Images
しかし、もしも既存のビジネスにしがみつくあまり、まさしく「何もしないのが最適解」の状態で「チャットボットなんか必要ない」と言っているのだとしたら、グーグルは存在意義を急速に失っていくだろう。
人工知能業界に対するグーグルの貢献はとてつもなく大きい。
にもかかわらず、その幹部がチャットボットを軽視、または敵視するような発言が外部に漏れるのはかなりの痛手ではないか。
少なくともチャットボットに未来を感じている研究者は、グーグルへの入社を考え直さざるを得ない。
かつて、「検索なんてポータルサイトには必要ない」と考えられていた時代があった。再び時間軸を20世紀末頃まで戻そう。
スティーヴン・レヴィの著書『グーグル ネット覇者の真実』のなかに、こんなエピソードがある。
スタンフォードの若き学者二人が、当時検索エンジン最大手のデジタルイクイップメント(DEC)社が運営するAltaVistaに、自分の検索エンジンを売り込みにいったところ、「この検索エンジンは、正確すぎてすぐに目的の情報にたどりついてしまい、サイトの滞在時間が減ってしまい、利益喪失がおきる」という理由で採用を見送られてしまった。
当時世界最大のポータルサイトだったYahoo!には、6人の検索エンジニアがいた。7人目を雇おうとしたら会社からストップがかかった。「そんな無駄なことに使う人間を雇う金はない」ということなのだ。
仕方がないので、彼らは外注先を探したが、検索エンジンのような「無駄なもの」を作っている会社はほとんどなかった。
ようやく見つかったのが、スタンフォードの学生がつくったちっぽけなチームだった。
それがグーグルだ。
「イノベーションのジレンマ」なのか
もうひとつの疑問が湧く。
これは果たして、いわゆる「イノベーションのジレンマ」なのだろうか。
「イノベーションのジレンマ」:優良企業がイノベーションを軽視して地位を喪失するという企業経営理論。大企業がスタートアップ企業を前に力を失う理由としてハーバード大経営大学院のクレイトン・クリステンセン教授が提唱した。
OpenAIは確かに新興企業だが、それをバックアップするのはイーロン・マスクとマイクロソフトだ。だとすれば、すでにスタートアップとは呼べないだろう。個人的には、どちらかというとマイクロソフトの傘の下にある組織だという見方をしている。
一方、グーグルも囲碁AIで知られるDeepMindを傘下に収めている。DeepMindはスタートアップだが、グーグルの全面的なバックアップを受けている。
DeepMindがチャットボットを作りたいと言ったら、止める人はグーグルにはいないだろう。
ただ、グーグルは自社内にも別のAI研究チームも持っている。2022年6月に報道を騒がせた「LaMDA」はそこで開発された会話エンジンの一つだった。LaMDAと会話したエンジニアがLaMDAに感情があると信じ込み、休職を命じられたりするなどの出来事があったのは記憶に新しい。
ただ、LaMDAは、技術的にはChatGPTの1世代前のものだ。
LaMDAはTransformer由来の技術であり、ChatGPTはTransformerに強化学習を組み合わせたものだ。
この2つは、「画像を分類するだけのAI」と「言葉から画像を生成するAI」くらい違う。
要は、この時点では「OpenAIに遅れをとった」わけだが、ChatGPTが現状ではかなり不完全なものであることは、以前の記事でも指摘した。
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チャットできるAI、ChatGPTが「そこまですごくない」理由。見えてしまった限界
一方、冒頭で紹介した報道にあったような、「風評リスクが大きい」という点に関しては、ChatGPTはかなりうまくやっているように思う。だからこそ、報道されたグーグルの主張は苦し紛れに聞こえる。
撮影:Business Insider Japan
前出の発言をしたのはディーン氏ではあるが、同席していたとされるアルファベットのピチャイCEOが即座に否定したという声は聞こえてこない。
仮にどんな意図で発せられた言葉であったとしても、経営トップが形式上認めたその言葉尻をとらえて、現場が混乱するのは目に見えている。
仮に筆者がAI研究者として、「チャットボットは検索にとってかわるのか」という質問をされたとしたら、「もちろんそうだ」と答える。
普通に考えれば、検索ボックスは、原始的なチャットボットにすぎないからだ。
グーグルは危機感があるのか、ないのか
かつて、スマートフォンという言葉が生まれる黎明期に、世界最先端の端末をつくっていたのはフィンランドのノキアだった。
文献によると、ノキアは2008年、52億ユーロ(当時の為替レートで約8300億円)の研究開発予算があったとされる。当時、50億ユーロ以上の研究開発予算をもつ企業は世界で数社しかなかったそうだ。
しかし、それだけの予算をもってしても、ノキアからiPhoneは生まれなかった。
その後、2013年になってノキアの携帯電話部門はマイクロソフトに買収されることになり、後のWindows Phoneを作った。
予算規模が巨大だったとしても常に最良の成果が得られるわけではないということを、私たちはこの端的な事例からも学び取ることができる。
グーグルが感じている危機感はまさしくこういうものかもしれない。
チャットボット(ChatGPT)を否定するコメントをせざるをえないほど、グーグルには危機感があるのではないか。
テック業界の歴史をその中心から見続けるなかで、グーグルは「予算規模が大きければ勝てる」とは限らないことを、よく知っている。
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