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概要:日銀の黒田東彦総裁は、来年にはインフレ率が減速するとの見方を維持している。エネルギーを含む国際商品市況の軟化や円相場の反転などに照らすと、蓋然(がいぜん)性を有する見通しであることは事実だ。
[東京 16日] - 日銀の黒田東彦総裁は、来年にはインフレ率が減速するとの見方を維持している。エネルギーを含む国際商品市況の軟化や円相場の反転などに照らすと、蓋然(がいぜん)性を有する見通しであることは事実だ。
日銀の黒田東彦総裁は、来年にはインフレ率が減速するとの見方を維持している。エネルギーを含む国際商品市況の軟化や円相場の反転などに照らすと、蓋然(がいぜん)性を有する見通しであることは事実だ。2020年1月都内で撮影(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
一方で、企業が既往のコスト上昇を価格に転嫁する動きは想定以上に継続している。こうした輸入インフレが、来年の賃上げによる国内インフレに移行しつつ、インフレ率の減速がなかなか進まない可能性も存在する。
その場合には、持続的な物価上昇であり、賃金と物価の好循環を伴う点で日銀が標榜してきた物価目標の達成となり、金融緩和の必要性もなくなる。
<来年視野に入る物価目標達成による緩和解除>
このうち来年の賃金に関しては、実質購買力の低下に直面した就業者の不満に加えて、マクロ的な企業収益の好調さや政治からの強い要請を踏まえると一定の上昇は期待できるとしても、実質賃金の十分な上昇は困難との見方も多い。
それでも、日銀の物価目標との関係では、物価目標や労働生産性の上昇と整合的な賃金上昇が実現すれば十分であり、実質賃金の確保は政府の労働政策(リカレント等)などを通じて達成されるべきである。
また、日銀が賃金上昇率に具体的なめどを示すことは、日銀による直接的な調節が難しい賃金目標が政策目標に加わるリスクがあるため、望ましいことではない。
<初めにYCC撤廃、現実的か>
そこで、日銀が金融緩和をどのように解除するかが次の問題となる。
この点について金融市場には、イールドカーブ・コントロール(YCC)を含む「量的・質的金融緩和(QQE)」を一気に解除すべき(ハードランディング)との意見がある。
その理由としては、YCCを維持したままで長短金利の誘導目標を漸進的に引き上げると、国債市場では次の利上げを見込んだ金利上昇圧力が高まるため、日銀は結果的に大量の国債買い入れを余儀なくされ、金融緩和の解除と矛盾する事態に陥るリスクが大きいと見方があるようだ。
また、長期金利の水準が相応に上昇しても、機関投資家や銀行にはむしろ国債の買い入れ需要が増すため、金利上昇圧力には歯止めがかかるとの指摘も聞かれる。
こうした考え方は合理性を有するだけでなく、国債市場の機能回復に向けて有用となる可能性がある。国債利回りを起点とする波及メカニズムを通じて、金融緩和解除の効果を経済全体に適切に波及させる上では、YCCのように市場機能を圧迫しうる政策は極力早期に停止すべきと考えることもできる。
それでも筆者は、少なくとも金融緩和の解除の初期段階では、YCCを維持しながら長短金利の誘導目標を漸進的に引き上げるべき(ソフトランディング)と考える。
その理由として、日本では超長期にわたって低金利環境が維持されてきただけに、利上げによる金融経済への影響の強度や時間的ラグなどに不透明性が高いことが挙げられる。
例えば、変動金利での住宅ローン借り入れを行っている多くの家計や超長期国債を大きく保有している中小金融機関には、対応のために一定の時間的猶予がある方が望ましい。実際、日本は預金金利を含む金利自由化が完了した1990年代中盤以降、本格的な利上げを一度も体験したことがないわけである。
一方で、ソフトランディングの副作用として、金融市場が先行きの利上げを過度に織り込む動きを抑制するには、10月の本稿で論じたようにいくつかの補完的な措置も必要である。
筆者は、1)米欧に比べてインフレ圧力が低いため、引き締め領域までの利上げは不要、2)日本の中立金利も米欧より低水準──といった点について日銀が金融市場と理解を共有することに加えて、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行の先例を踏まえて、国債市場が不安定化した場合には限定的に日銀が国債を買い入れる措置を用意しておくことが有用と考える。
<QQE継続の必要性低下、緩和解除理由に>
ところで、仮に物価目標が達成されなくても、日銀には別な理由で金融緩和を解除するケースもありうる。それは、QQEの評価をもとにその継続の必要性が乏しいと判断する場合である。
QQEの評価としては、効果が減衰し副作用とのバランスが変化したなど、必ずしもネガティブな内容である必要はなく、デフレのリスクは消滅したとか、価格や賃金の設定行動の変化に照らすとインフレ期待は確実に上昇したといった、ポジティブな内容も十分に考えられる。
また、金融政策は本来、属人的なものではないが、QQE導入時の経緯を踏まえても、2023年春の正副総裁の任期満了は政策運営の見直しの契機となりうる。この点に関して、政府の経済政策において新たな哲学が尊重されるのであれば、その体現の意味合いも持ちうる。
この場合、日銀による政策変更の目的はYCCを伴うQQEという「強力かつ異例」の金融緩和の解除であり、物価目標が達成されていない以上、金融緩和自体は続ける必要性も残る。
つまり、ゼロないし小幅なマイナス水準までの政策金利の変更、(国債利回りの誘導目標を伴わない)国債買い入れ、およびフォワードガイダンスを活用した金融緩和である。その意味では、これも以前の本稿で論じたように、普通の金融緩和へ移行するという意味で「金融緩和の正常化」ともいえる。
このケースについて金融市場では、仮に実現するとしても2023年度の後半以降との見方があるようだ。その理由として、黒田総裁にはQQEの評価を行うインセンティブが少ないだけに、そうした評価は来年春以降の新体制下で行われるはずであり、評価の完了とそれに基づく新たな金融緩和の議論には、一定の時間を要するという推察があるようだ。
しかし、日銀は既に2016年の総括的検証や2018年の検証、さらには2021年春の点検などを通じて、QQEの評価に関する知見を蓄積している。もちろん、足元でのインフレ期待の上昇に伴う金融緩和効果の強化の意味合いのように、今後にデータの蓄積を待って分析を行う必要のある領域も存在するが、総じてみれば、これまでの知見を活用してQQEの評価を行うことは可能であり、そのために新たに多くの時間を要するとは考えにくい。
さらに言えば、2020年のコロナショック前には景気や物価も一定の改善を示していただけに、新たな金融政策の展望について、相応の議論や検討が行われていても不自然ではない。その実績も活用すれば、来年春以降の新体制が程なくQQEの評価を完了し、普通の金融緩和に移行することも困難でないように思える。
その上で、YCCを伴うQQEから普通の金融緩和へ移行するケースで重要なことは、国債利回りの不安定化を防ぐことである。
<市場混乱に備えた日銀国債買入ルールの導入>
今後は普通の金融緩和によって物価目標の達成を目指すだけに、市場の思惑や誤解によって国債利回りが先行して上昇する事態を避けることが不可欠になる。
そのためには、上記のソフトランディングにおける補完的措置と同じく、国債市場が不安定化した場合には限定的に日銀が国債を買い入れる措置を用意しておくことが有用と考える。
このように、物価目標の達成を踏まえて利上げを行う場合も、実績評価をもとにYCCを伴うQQEを解除する場合も、結局のところ、機動的で焦点を絞った国債買い入れを予備的手段として残しておくことの重要性が確認される。
この点は、総括的検証以降のQQEにおいてYCCを通じた国債利回りの制御が極めて重要な位置を占め、かつ大半の期間において長期金利の低位安定という初期の効果を強く発揮したことの裏返しでもある。
編集:田巻一彦
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部シニア研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。金融イノベーション研究部・主席研究員を務め、2021年8月から現職。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。
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