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概要:自民党税制調査会は、今後、防衛費を5年間かけて43兆円程度に増やしていくことの財源裏付けとして、1兆円分を増税でまかなうことを決定した。この決定には、岸田文雄首相の意向が強く働いているとされる。
熊野英生 第一生命経済研究所
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[東京 16日] - 自民党税制調査会は、今後、防衛費を5年間かけて43兆円程度に増やしていくことの財源裏付けとして、1兆円分を増税でまかなうことを決定した。この決定には、岸田文雄首相の意向が強く働いているとされる。
12月16日、自民党税制調査会は、今後、防衛費を5年間かけて43兆円程度に増やしていくことの財源裏付けとして、1兆円分を増税でまかなうことを決定した。写真は10日、都内で取材に応じる岸田首相。代表撮影(2022年 ロイター)
<増税の痛み>
なぜ、岸田首相は痛みを伴う増税について「Yes」と指示したのだろうか。本稿では、このスキームの詳細や防衛力強化の必要性などはひとまず置き、岸田首相自身が何を考えているのか、という真意に絞って議論を進めたい。
財源となるのは、1)法人税、2)たばこ税、3)所得税である。所得税は、すでに行われている復興特別所得税の2.1%のうち、1.0%を引き下げて、それと同率の1.0%を防衛費の財源に充てる仕組みにした。事実上の復興財源の転用だと思える。
その代わりに、2037年に終わるはずだった復興特別所得税は税率1.1%として14年間延長されることになった。この部分は、将来の増税として、痛みを感じさせる内容だ。この部分が、一部の人々の強い反発を生んでいる。
<ペイゴー原則とその効果>
復興増税の延長は、誰でも痛みを感じる。筆者自身も嫌だなと思う。しかし、この痛みがあるところがポイントだ。
何かの支出を増やすときは、支出に対して痛みのある財源探しを求められる。要するに、支出増と財源探しを「ひも付け」したことが、岸田首相の狙いだったと筆者は考える。
米国では、1990年代に財政再建が一時的に成功した経験がある。そのときに用いられたのが、「ペイゴー原則」である。ペイゴー原則とは、新たな歳出拡大を行うときには、同時にその財源を確保しなくてはいけないとするルールである。財源を明確にしない赤字国債を使って、新しい歳出拡大を許さないということになる。ペイゴーとは「PAY-AS-YOU-GO」の略であり「使った分だけ支払う」という意味である。
こうしたルールの下では、新たな増税が嫌だという国民感情が、次々に歳出案件が実行されることに歯止めをかける。そうしたインセンティブ構造をつくらなくては、歳出拡大が継続される現状に歯止めをかけられない。増税を嫌う国民の間からは、増税するくらいならば、何か歳出削減をした方がよいという声が出てきている。
<岸田首相の決意>
これまで、岸田首相は就任以来、財政再建に向けた取り組みが熱心だったとは言えない。以前は、財政再建に理解がある政治家という見方があったが、首相に就任するとあまり抵抗感なく補正予算の拡大に応じたように見えた。
特に2022年度の総合経済対策では、第2次補正予算において国費を28.9兆円増やし、22.9兆円の追加的な国債発行が予定された。
この歳出拡大はやり過ぎ感があった。膨大な規模のコロナ対策の後に、物価対策として超大型の補正予算が組まれた。
一方で、2021年度予算では、不用額が6.3兆円にのぼり、翌年度以降への繰り越し額は22.4兆円に膨らんだ。併せて約29兆円が使われなかった。このことだけを取っても、政府予算が肥大化していたことを示している。
岸田首相は、財政赤字の拡大が止まらないことに心を痛めていたと考えられる。そして、どこかの時点で、財政規律が失われることに対して、規律をつなぎ留める何らかの策を組み込まなくてはいけないと、意を決していたのだろう。その「乾坤一擲」(けんこんいってき)の一手が、防衛力強化のための増税策だったと推理する。
増税に対して、岸田政権が苦心すればするほど、次に新しい歳出案件を持ち出すことには、困難を伴うという警戒感が生じる。増税の痛みを連想させることで、安易に歳出拡大できないというけん制効果が働く──。そうした健全な感覚を取り戻そうとする試みが、増税を行う意図なのだと筆者は考える。
<次は日銀人事か>
戦後の日本では、ついこの間まで追加的な歳出拡大に対し、長期金利の上昇という現象によって痛みが生じ、けん制効果が働くメカニズムが機能していた。
ところが、日銀の黒田東彦総裁が登場して、長期金利の上昇は人為的に管理されるようになった。特に、イールドカーブ・コントロール(YCC)による長期金利の固定化は、金利機能を麻痺させる「副作用」を生じさせた。
その結果、政府の歳出拡大に歯止めがかからない時期が続くことになった。この点は、黒田総裁の功と罪のうち、罪の部分である。
近々、決定される次期日銀総裁人事では、岸田カラーをもっと出してくるはずだ。黒田路線とは違う路線への政策修正をいとわない人選もあり得るだろう。
新しい執行部に求められる課題は、行き過ぎた長期金利の管理を是正して、市場で金利が決まる運営にシフトさせていくことである。筆者は、その次期日銀総裁の人選において、岸田首相の意向が強く反映されるとみている。
その時、今回の防衛力強化のための増税策に込められた岸田首相の意図と同じものが働くと考えられる。歳出を拡大すれば、そのコストが長期金利上昇として跳ね返ってくるという状況を少しずつ金融市場でつくり出していった方がよいという考え方だ。
「ペイゴー原則」を適用する範囲を徐々に広げていくとともに、金利上昇も許容していくことで、財政規律を取り戻していく。将来的に、日本の政策運営を「普通の国」に戻していく作業である。日銀総裁と副総裁の人事では、岸田首相の意図が強くにじんでくるに違いない。
ところで、なぜ、岸田首相はこのタイミングで増税策を打ち出してきたのだろうか。1つの理由は、敢えて反対意見のあるテーマで主導権を握り、自分のリーダーシップを示そうとした可能性である。岸田カラーと強いリーダーシップの両方を印象付けることになる。
もう1つは、長期政権を意識すると、やはり財政再建を選択せざるを得ないという事情だ。日銀総裁人事でも、自分の意向が働きやすい人物の方が、財政と金融を組み合わせたマクロ経済政策の運営を円滑にできる。かつての安倍晋三首相と黒田総裁のAKラインのような関係を再現したいのかもしれない。
今、岸田首相はゆっくりとかじを切ろうとしている。
編集:田巻一彦
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。
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