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概要:円安やインフレといった言葉がニュースになった2022年。他国と比較したときの日本の給与水準の低さもよく話題にのぼりました。私たちの給料は今後どうすれば上がるのでしょうか。
shirosuna-m/Getty Images
今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても平易に読み通せます。
円安やインフレといった言葉がニュースになった2022年は、他国と比較したときの日本の給与水準の低さもよく話題にのぼりました。私たちの給料はこの先どうすれば上がるのでしょうか? ボーナスシーズンの今、入山先生が提言します。
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Business Insider Japan · 「入山章栄の 経営理論でイシューを語ろう」第134回_teaser
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給料が上がらないのは雇用の流動化が進まないせい
こんにちは、入山章栄です。
もう年の瀬ですね。ついこのあいだM1グランプリで錦鯉が優勝したと思ったら、もう次のM1の季節。1年が経つのは本当に早いですね。
BIJ編集部・常盤
12月といえば、気になるのがボーナスです。今年は円安だインフレだと経済回りで気になるニュースが多く、世界の水準と比較しても日本の賃金が低すぎるということも話題になりました。
物価が全体的に上がっているのに給料が上がらないと、企業も原材料費の高騰を価格に転嫁させづらいですよね。このデフレマインドから脱却するには、どうしたらいいのでしょうか。
「なぜ日本は賃金が上がらず、長い間デフレのままか」という問題は、日本の大きな課題ですよね。でもこの問題については、少なくとも一部の経済学者の間ではほぼコンセンサスができているようにみえます。
それは一言でいって雇用が流動化していないから。
企業が従業員の賃金を上げるには何が必要でしょうか。企業だって必死に努力しているわけですから、そこで賃金を上げるということは、会社に追加の人件費がかかることを意味します。したがって、人件費を一定に抑えるためには、逆に企業が従業員の数を減らしやすくする必要があるのです。
やや厳しい表現をすれば、会社が人を解雇してもいい状況を作り出す必要がある、ということです。これは多くの経済学者が主張していることですね。経営学者である僕も同じ意見です。
日本は長い間、「新卒一括採用・終身雇用」をとってきたので、雇用を守ることを最優先にしてきました。他方で、現代の欧米の企業は競争力や利益が落ちてくると、雇用を減らして利益を確保します。これはどちらがいいか悪いかではなく、そういう仕組みだということです。
繰り返しですが、日本は業績が悪くても絶対に雇用を守るというスタンスをとる。すると人件費の予算を一定内でまかなうには、一人当たりの賃金を抑える必要があります。だから日本企業は、全般的に賃金を抑える方向に行くのです。
例えば日本のメーカーを考えましょう。メーカーからすると、日本中の会社が賃金を抑えているのだから、日本中のみなさんの給料が低い状態です。だとすると、そこで値段が高いものを売ったところで売れるはずがない、と予測しますよね。だから高額製品よりも、可能な限り安いものを提供するわけです。
でもメーカーが安いものしか提供しないと今度はどうなるか。そのメーカーはギリギリまで価格を下げているので、あまり利益が伸びません。ということは、利益を生み出すためには製造コストを抑える必要がある。だとすると、労働者の賃金を抑える方向に行く、というわけです。つまり、低い賃金→モノの価格を上げられない→さらに低い賃金、というサイクルになっていくわけです。
このように、もともと日本の会社の利益率は低く、カツカツのところでやっているわけで、これ以上利益は下げられない。それなのに、もし賃金を上げる必要があるのであれば、それは人件費が余分にかかるわけだから、生産性が低い人に辞めてもらうしかないのです。
BIJ編集部・常盤
なるほど。そういうサイクルになってしまうんですね。
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賃金だけ上げろと言っても無理
そうなんです。そしてもう一つ、大きなポイントがあります。
終身雇用では、人をずっと同じ組織に留めていますよね。いわゆるメンバーシップ型の雇用です。すると、その雇われている人はずっと同じ会社にいるし、「◯◯会社」にいるということだけが自分の価値になりがちなので、自分が他社で通用するスキルや能力をどのくらい持っているか分からないわけです。ですから、自分という人材を果たして労働市場で高く売れるかどうか、判断がつかない。自分の市場価値が分からない、ということですね。
自分が今の会社を辞めて他の仕事に就いたらいくら給料がもらえるかが分からなければ、転職するのが怖くなる。結果、さらに今の職場にしがみついてしまうのです。
逆に、いわゆるジョブ型雇用の世界では、人はその人の特定の職種のスキルや能力で評価されます。ジョブの特性は多くの場合、労働市場全体で共有化されたモノです。だから、自分のそのジョブでの市場価値が分かりやすい。それを把握していれば、給料の高いほうに移るのは自然な流れですし、企業からしても優秀な人材であれば高い給料を払っても来てもらいたい、ということになる。
つまり簡単に言うと、今の日本ではメンバーシップ型雇用が主流なので、市場メカニズムを使った人間の最適な配分ができていないのです。これが第二の構造的な問題です。
この「雇用が流動化しにくい」「ジョブ型雇用が進んでいない」という課題を置き去りにしたまま、賃金だけ上げろと言っても無理なんですよ。
BIJ編集部・常盤
でも、いきなり人をクビにするのは難しいですよね。労組は当然反対するでしょうし、日本では労働者が労働基準法で手厚く守られています。それに賃金を上げるためとはいえ、自分が解雇されるリスクを高めることにイエスと言える人はほとんどいないのでは?
一つは、やはり日本の解雇規制をある程度見直す必要はあるでしょうね。加えて、日本だと人を解雇する企業は、やはり世間から「あの会社は冷たい」と思われたりするのも大きな障害になっています。
もう一つ、制度的な仕組みで言うと、批判するつもりはありませんが、いろいろな労働組合が集まった組織である「連合」が大きすぎるのかもしれません。本来、最適な賃金や働き方は業種によって違うはずでしょう。しかし連合はあらゆる業種の組合が集まった超巨大組織なんです。そこにはいろいろな人がいるから、そのすべての要求を聞いていると逆に連合全体の意見は丸くなってしまい、結局、共通する要求は「雇用維持」になる。
僕は連合の方と交流する機会も少しあるのですが、本当は連合内部にも「もう低賃金で終身雇用の時代ではないよね」と分かっている方も大勢いらっしゃいます。さらに言えば、僕は厚生労働省の労働政策審議会の委員も務めているのですが、厚労省の内部も同様の認識を持っている官僚は多くいます。
それでは、どうやって今の状態から脱却するか。それには、やはりこれまでとは「逆のサイクル」をつくっていくしかないと思います。
まずわれわれ労働者側から見ると、「本当はもっと別の会社に移った方がお金が稼げるはずなのに、今いる会社から出たくない人」が多すぎる。つまり雇用の流動化が進んでいない。それは先ほど言ったとおり、メンバーシップ型雇用で転職したことがないから、自分の市場価値が分からないという人が多いからです。逆に言うと、自分の市場価値は一度転職すると分かる。
転職しないまでも、ヘッドハンターに会ったり、転職サイトに登録したりするだけでもだいたいのところは分かるものです。元ZOZOの田端信太郎さんが言う、「年に一回ヘッドハンターに会うのは健康診断のようなもの」というのは、けだし名言だと思います。
何歳からでも「リスキリング」で給料を上げる
そういうふうにして、もし自分の市場価値が思ったより高いことが分かったら、もっといい条件のところに移ればいいのです。問題は、自分の市場価値が思ったより低いと判明した人です。この方々はどうすればいいのか。その対策として最近注目されているのが「リスキリング」ですね。つまり新しいスキルを身につけることです。
例えば今45歳で年収500万円の人でも、新しい考え方やスキルを身につけていけば、今からだって年収700万円とか、800万円、1000万円にできるかもしれない。そういう社会的な仕組みをつくっていくことが重要です。率直に言って、日本はこのリスキリングの制度がとても弱いです。
BIJ編集部・常盤
リスキリングという言葉をここ1、2年で頻繁に耳にするようになりましたね。
ヨーロッパや北欧ではこのリスキリングの制度がちゃんと機能しています。例えばドイツでは今、製造業の倒産に伴う失業が多発していますが、プログラミングを学べる機会があって、40歳を過ぎたおじさんでもデジタル人材に転換し、めちゃめちゃいい給料をもらうようになった、というような例が普通にある。デンマークでは、3000種類の職種に対するリスキリングのプログラムがあり、若者から中高年までがしょっちゅうこの研修を受けているのです。
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「何歳からでも新しいことを学べば、他の仕事に就けるし給料も上がる」という世界が常態化していくと、これまでと逆の好循環の回転が始まります。つまり、能力が上がれば当然お給料も上がる→高いものでも買える余地が生まれる→企業も高い値付けができる→物価も上がる。こうすれば、日本はデフレから脱却できるはずです。
BIJ編集部・常盤
「企業がもっと内部留保を吐き出せば給料を上げられるのでは」と思っていましたが、そう単純なものではないのですね。私が思っていた以上に根の深い問題でした。
日本企業はそれほど現預金を溜め込んでいませんよ。もちろん溜め込んでいる会社もあるけれど、そういう会社は投資家のプレッシャーを受けて、どんどん投資したり、自社株買いをしたりせざるをえなくなるはずです。
それより大事なのは雇用の流動化を促すこと。その本命は、ちょっと言葉は悪いけれど“中高年のホワイトカラーのおじさん”です。人数が多すぎるし、終身雇用の時代が長かったので自分の価値を知らない。この本丸に手をつけなければ、しょうがないです。厳しい言い方だったらすいません。でもそれが日本の現実です。
BIJ編集部・常盤
一朝一夕には変わらないかもしれませんが、2023年を今よりいい状況にするためには、私たちにもそれなりの努力が必要ですね。
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入山章栄:早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所に勤務した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』『世界標準の経営理論』など。
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