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概要:ESG経営に注目が集まる中、非財務情報も含めた「統合報告書」を公表する企業が増えてきました。ただ、それを成果に生かしきれていないという悩みは多いそうです。電通グループは「真の企業価値」の向上をサポートしています。どのような取り組みが進んでするのでしょうか。電通の担当者3人に聞きました。
ESG経営に注目が集まる中、財務のみならず非財務情報も含めた「統合報告書」を公表する企業が増えてきた。ただ、統合報告書をつくったものの、それをステークホルダーとのコミュニケーションに生かしきれておらず、具体的な成果につながっていないという悩みは多い。
電通グループはクライアントに向けて、非財務も含めた「真の企業価値」の向上をサポートしている。奇しくもその動きはグループ各社から同時多発的に起きたものだという。その取り組みを追った。
“いい会社”の基準が変わったのだから、未来に向けた羅針盤が必要だ
株主資本主義からステークホルダー資本主義へのシフトが求められる中で、「いい会社」の定義が変わりつつある。単に利益を出すだけでなく、ESGやウェルビーイングといった非財務的な価値のある会社が社会に評価されるようになったのだ。
敏感な経営者はすでにその変化に気づいている。ただ、「変化を感じつつ、戸惑っている会社は少なくない」と、電通 第3CRプランニング局/Future Creative Centerの統括クリエーティブ・ディレクター、小野総一氏は指摘する。
小野総一(おの・そういち)氏/電通 第3CRプランニング局/Future Creative Center 統括クリエーティブ・ディレクター/マーケティング・ストラテジスト。事業戦略から、商品開発、CM、プロモーション、ウェブ、アプリ、店頭、戦略PR、イベントなど、プランニングニュートラルで企画し、解決策のアイデアを提供。昨今は、事業、商品開発・施設開発など広告コミュニケーションの垣根を越えた仕事の割合も多く、領域を広げている。受賞歴に、ACCグランプリ、ADCグランプリ、ギャラクシー賞、Cannes Lions、Adfest、グッドデザイン賞2年連続受賞など。
「自社が目指すべき“いい会社”像をうまく言語化できていなかったり、会社全体まで浸透していなかったりするケースが多いですね。
いい会社になるためには、経営者だけでなく現場のみなさんも含めて、みんなが理解できる全体の設計図が必要です」(小野氏)
全体の設計図を担うのは本来、統合報告書の役割だ。しかし、現状では非財務領域の重要性が高まっている一方で、その現状や価値を統合報告書に表現・整理しきれておらず、結果としてステークホルダーに対し自社の価値をきちんと伝えられていない会社が目立つ。
真の企業価値向上を目指すなら、財務・非財務の価値をよりクリアに見える化して、具体的なアクションにつなげられるものにしなければならない。そうした問題意識から始まったのが、企業価値を財務のみならず非財務の視点でも見える化する「統合諸表」プロジェクトだ。
電通の統合諸表(クリックして拡大)
企業研究や実務として始めたのは約1年前。70社以上の統合報告書、その中での財務・非財務指標を考察する中で、多くの企業に共通する課題も見えてきた。
たとえばその一つは、パーパスやビジョンが機能していないこと。一般的に大企業ほど部署や社外のステークホルダーが多い。それゆえパーパスやビジョンが輪郭のぼやけた最大公約数的なものになりがちで、現業をどのように変革すればそこにつながるのかの道筋が見えづらかった。
また、企業内の各部門はそれぞれ価値向上につながる取り組みをしているが、それらが個別に推進されていることも課題だった。部門や領域の取り組みがタコツボ化して、シナジーを生んでいなかったのだ。
「パーパスと現業の分断、そして社内の各取り組み間の分断——。二つの分断をつなぎ直すにはストーリーが必要です。そのストーリーをプランニングするメソッドとして『統合Actions』を開発しました。統合Actionsでは、まず現業の捉え直しとパーパスの規定を行います。
次は、各部門や領域が好循環を生んでつながるストーリーのプランニングです。
具体的には、それぞれのアクションの評価、棚卸しを行い、活動全体のポートフォリオを財務・非財務の垣根を越え、ストーリーをもって再整理し、統廃合したり、改善し磨き上げたり、足りないピースは新開発したり、といったアクション全体のマネジメントをお手伝いさせていただきます。
アクションは単発になってはならず、そして各ステークホルダーを巻き込んで広がりを持つものになる必要があります。そういうことを俯瞰したモデルの中で作り上げていくものとなります」(小野氏)
統合諸表と統合Actions。二つのツールが揃うことで、企業は未来に進むための羅針盤を手に入れる。小野氏は、プロジェクトに込めた思いをこう語る。
「これまでの広告やマーケティングは短期的な成果を出すことに寄っていて、デジタルの時代になって各種指標を達成すべきサイクルがより短期化する傾向がありました。
一方、経営陣の皆様は5年、10年単位で企業の成長を考えています。そのためのフレームワークが統合諸表と統合Actions。うまく活用していただき、一緒に未来価値をつくっていけたらいいと考えています」(小野氏)
AIを活用して、ビッグデータから非財務施策の財務への影響を分析
電通が統合諸表プロジェクトを進めているとき、電通グループ内のSIerである電通国際情報サービス(以下ISID)と、製造業向けコンサルティングに強いアイティアイディ(以下ITID)では別の動きが起きていた。
ITIDのR&CDユニット ユニットディレクターの蟹江淳氏は、クライアントの営利事業と非営利事業が完全に分離していることについて問題意識を持っていた。
蟹江淳(かにえ・じゅん)氏/アイティアイディ(ITID) R&CDユニット ユニットディレクター。製造業/出版業/飲食チェーン等の様々な業界における戦略立案/業務変革・BPRの経験が豊富である一方で、タレントマネジメント、組織活性化等、人・組織に関わる問題解決にも幅広く携わる。事業を価値創出プロセスと人・組織の両面から変革し、顧客の価値提供力向上を支援している。近年はESG経営や地方自治体支援にも力を入れており、カーボンニュートラルや非財務資本の情報開示、地域企業のDX化といったテーマへの取り組みを強化している。
「多くの場合、非営利事業は社会に福祉を提供するところで終わっていて、企業全体の成長には必ずしも寄与していないように見えました。慈善事業であり、営利事業が傾けばきっと撤退してしまう。
社会価値と経済価値のどちらも高められるような持続的な事業モデルはどのように描けるのか。サステナビリティで先行している企業の成功パターンをビッグデータから導けないかと考え、ISIDの統計分析スペシャリストである松山普一さんに相談しました」(蟹江氏)
松山氏は、蟹江氏から打診を受ける前から先行して財務と非財務の関係性を解析していたという。
「非財務の活動は企業にとってコストである一方、取り組まなければネガティブな影響も起こりえるので、ある意味致し方なくやっているだけ——。
そうした声を聞いて、本当にそうなのかと去年の夏から研究を始めていました。タイミングよく蟹江さんからお話があったので、事情をよく知っている製造業から分析をスタートさせました」(松山氏)
分析にはISIDが、ソニーコンピュータサイエンス研究所とクウジットの3社が共同で事業展開する人口知能(AI)技術による因果分析サービス「CALC」を活用した。
通常、分析には自分で仮説を立ててモデルをつくる必要があるが、非財務と財務の関係は未知な部分が多く、仮説を立てづらい。そこで予断を排するためAIを活用してのモデル化を試みた。
松山普一(まつやま・ひろかず)氏/電通国際情報サービス(ISID)X(クロス)イノベーション本部 オープンイノベーションラボ シニアコンサルタント。国内・国外の学術研究機関で経済学・統計学の研究者としてキャリアをスタートして2018年より現職。経済学とデータ分析のスキルを用いて、社会課題の解決のために研究開発に従事。近年は非財務データと財務データとの間の関係性の把握と、量子コンピュータを用いた数理最適化に興味があり、データやコードの海に溺れながら日々を過ごしている。
「その結果、さまざまなことが分かりました。製造業では、直近の取り組みは財務にほぼ影響を与えず、5~6年の地道な取り組みが影響を与えます。
また、環境の取り組みよりガバナンスの取り組みのほうが財務に与える影響が大きいのです。ただし、環境の取り組みが財務に貢献しないわけではありません。例えば移動にCO2排出量が少ない車両を使っている会社は、財務にいい影響があります」(松山氏)
実は非財務の領域に強い確信を持って取り組んでいる企業ばかりではない。
「周りに遅れるわけにはいかない」と競争環境を意識して、迷いつつ取り組んでいるところも少なくない。その迷いを確信に変えるのがデータ分析だ。クライアントと直接やり取りする蟹江氏はこう語る。
「ある施策をやった場合とやらなかった場合のシミュレーション(介入シミュレーション)を行い、『御社の業態では、この施策に効果がある』と示すと納得いただけます。逆にデータ的には効果が低い施策に、強い確信を持って取り組んでいるお客様もいます。
このときデータ分析からすれば、その施策は見直したほうがいいのではないかと提示しても、すぐにはご理解いただけないことも多い。適切なタイミングで適切なコミュニケーションを取る必要がありますが、そこは私たちがコンサルティングで普段からやっていることで、一日の長があります」(蟹江氏)
ビジョナリーとリバースエンジニアリング、両方の視点で企業価値を考える
元々は異なる出発点からはじまった電通の「統合諸表プロジェクト」と、ISID/ITIDの「データ分析」だが、グループ連携が進む中、両者も連携し、多面的に企業価値向上を支援する体制が整ってきている。
「電通のアプローチはビジョナリーで、統合諸表/統合Actionsは未来を見据えたストーリーづくり。
一方、ISID/ITIDは過去の成功事例を分解してパターンを見つけるリバースエンジニアリング的なアプローチで、データドリブンのシミュレーション分析。トップダウンとボトムアップ、両方の視点から非財務と財務のつながりを考えることが、より高い企業価値につながるはずです」(蟹江氏)
それぞれ立ち上がって間もないプロジェクトゆえにこれまで別々に動いていたが、今後は相乗効果を生かしてタッグを組む場面が増えそうだ。
統合Actionsの目的の一つは分断された領域をつなぎ直すことだったが、電通グループ自身、組織の枠を超えてストーリーをつむごうとしている。最後に電通グループ自体の価値について、それぞれの立場から語ってもらった。
「電通グループはさまざまな事業体や職種がある社会の縮図であり、多様な価値観やスタンスを持ったメンバーが集まっています。
そのダイバーシティが生み出す、いわば『健全なカオス』のようなものが、様々なソリューションを磨き上げていくという側面もあります。非財務を含めた企業価値向上支援の取り組みについても、協力の輪を広げてさらに進化させていきたい」(小野氏)
「今回はESGをテーマにグループ内でいい縁ができました。このつながりは、おそらく他のテーマでも生かせるはず。今後も柔軟に連携して、グループとしての強みを発揮できれば、より多くのクライアント様の課題を解決できるのではないでしょうか」(松山氏)
*CALCはソニーグループ株式会社の登録商標です。
*CALCは株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所が開発した技術です。
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