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概要:ウクライナ南部・ザポロジエ原発で次席広報責任者を務めていたアンドリー・タズ氏(32)は、ロシア軍が同原発を制圧した事実を世界中に広める役割を果たした。
[ジュネーブ 15日 ロイター] - ウクライナ南部・ザポロジエ原発で次席広報責任者を務めていたアンドリー・タズ氏(32)は、ロシア軍が同原発を制圧した事実を世界中に広める役割を果たした。
ウクライナ南部・ザポロジエ原発で次席広報責任者を務めていたアンドリー・タズ氏(写真)は、ロシア軍が同原発を制圧した事実を世界中に広める役割を果たした。スイス・ジュネーブで8月18日撮影(2022年 ロイター/Denis Balibouse)
ところが、今は外国に亡命中で職を失い、原発を運営するウクライナ国営企業・エネルゴアトムの文書に基づくと、ウクライナの情報機関からは、ロシアの協力者ではないかと疑われている。
<愛国者か裏切り者か>
なぜ、タズ氏がウクライナの愛国者とたたえられた立場から、「裏切り者」呼ばわりされる状況に陥ったのか。それは原発から避難した際にロシアの情報機関と接点を持ってしまったことや、6月に公開された動画でタズ氏が「ロシアが原発を砲撃したと発言したのは真実ではなかった」と述べたことなどが原因だ。もっともタズ氏によると、これはロシアの情報機関当局者に拷問を受けた後、録画を強制されたのだという。
ザポロジエ原発はロシアとウクライナの戦争で最前線に位置する。外部電源切断などの被害が報告されている同原発を巡っては、相手に問題の責任を押しつけようとする両国の政治宣伝合戦が白熱化しており、タズ氏はその渦中で翻ろうされている。
7月11日付のエネルゴアトムの内部文書をロイターが確認したところ、ウクライナの情報機関、保安局(SBU)はタズ氏がロシア軍を手助けした可能性があると考えている。
この文書には、タズ氏解雇の指示も記載されていた。ロイターは、ロシアから拷問されてロシア寄りの発言を強いられたというタズ氏の主張を確かめることはできていない。
SBUは今月、ロイターに対して、現場の情報収集活動でタズ氏に関する話を入手したと説明したが、こうした活動の秘匿性を保障する法令を根拠に、それ以上詳しい内容は明らかにしなかった。
現時点では、同氏の刑事裁判に向けた手続きは、開始されていないとも付け加えた。
ロシア情報機関、連邦保安局(FSB)とロシア大統領府はコメント要請に回答がなかった。ロシアはこれまで、ザポロジエ原発の安全な運転を維持するため、あらゆる措置を講じていると強調している。
エネルゴアトムの広報担当者はロイターに対し、タズ氏はもはや従業員でないと述べた上で「FSBに協力していたかどうか」はSBUに聞いてほしいと質問をかわした。
タズ氏はロイターに、今後解雇に異議を申し立てるつもりで、ウクライナ当局は彼の身に何が起きたか理解すれば無実を認めてくれるだろう、との期待感を示した。
ロシア軍が3月上旬にザポロジエ原発を制圧した後も、ウクライナ人の従業員らは運転を継続。ウクライナ政府の表現によれば、実質的に「銃口を突きつけられて」の行動という。
原発施設内や付近への砲撃はやまず、国際社会はかつてのチョルノービリ(チェルノブイリ)原発のような放射能漏れの大惨事が再び起きるのではないかと懸念を強めている。
先週には国際原子力機関(IAEA)の専門家が現地入りし、原発が広範囲にダメージを受け、存続不能の状況になっているとの見解を表明した。
こうした砲撃について、ロシアとウクライナはともに相手側の行為だと非難。ソーシャルメディアや政府声明、その他の情報伝達手段を通じて自己正当化に余念がなく、双方が相手は「核テロリズム」に手を染めていると激しい言葉をぶつけ合っている。
<FSBの登場>
タズ氏の話では、自身がザポロジエ原発で働き始めたのは2012年。次席広報責任者を任されたのは昨年だった。
そして今年3月初め、ロシア軍が接近してくるとテレグラムに開設したエネルゴアトムとザポロジエ原発の公式アカウントに定期的に動画を投稿し、テレビにも出演。
3月4日に投稿された一連の動画では、タズ氏が直接カメラ目線で「気をつけて、ロシアの火器がザポロジエ原発に向けて発砲している」とコメント。別の動画では、原発のある建物で火災が起きたが、銃火のせいで消防隊が近づけないと話していた。
ロシア軍はまさにこの日、原発を制圧。ほぼ同時に働き手の大半が暮らすエネルホダル市も手中に収めた。タズ氏の動画更新は同日で止まっている。
6月に入り、タズ氏は年老いた母とともにエネルホダルを離れ、ロシアを経由してジョージアに向かおうとした。ウクライナ軍の支配地域に逃げ込むには、危険な前線を通る必要があったためだ。
タズ氏の話などによると、6月21日に自ら運転する車がロシア南部の検問所で止められた。ロシア側の警察による車内捜索の様子を目撃した1人はロイターに、確かに運転者と高齢女性がいたと語った。
その後、警察はタズ氏をFSBに引き渡し、FSBが同氏を拘束して約90キロ離れたソチ市に移送。同地では騒乱罪で起訴され、ロイターが調べたところ、罰金支払いを命じられた。タズ氏は、FSBが同氏を拘留する名目作りのために罪をでっち上げたと主張している。
ソチ市があるクラスノダール地方の刑事警察と交通警察の監督機関は、コメント要請に応じなかった。
ここに移されたタズ氏は、取り調べ担当者から頭にポリ袋をかぶせられ、両手首をきつく縛られて殴打され、ライターで指をあぶられるなどの拷問を受けた。そのため何でもするから拷問をやめてほしいと言わざるを得なくなり、幾つかの質問に答えさせられた後、ロシア軍による原発砲撃を否定する動画の録画を強制された。
タズ氏は「こんな与太話を誰も信じるわけがないと認識していた」と当時を振り返る。
次の日、同氏はソチ市内の公園に連れて行かれ、カメラに向かって「私はソチで休暇中だ。当地の人々は非常に友好的で親切にしてくれる」と言わされたという。
さらに3月にロシア軍が原発を砲撃したと述べたことについて、その情報が正しくなかったのだと、今は理解していると発言を訂正した。
このロシアに都合の良い動画は、6月23日にユーチューブを含めたロシア国内のソーシャルメディアに拡散された。
FSBは、タズ氏が明かした拘束や取り調べの状況に関するロイターの質問に答えなかった。
タズ氏の母親はロイターに、息子が解放された際には「大変やつれきった」様子で、シャツには血が付いていたと語った。
<怪しい人物>
タズ氏は動画撮影を終えた6月22日夜に解放されたが、FSBは7月8日までパスポートを返さなかったので、即座に移動できなかった。
この間、同氏を拘束したFSB職員の1人で「マトベイ」と名乗る人物が、携帯電話で定期的に接触を維持してきたという。
ロイターがタズ氏から教わったこの人物の番号に電話すると「マトベイさん」との呼びかけに応じ、ロシアの情報機関に勤務していることを否定しなかった。
また、タズ氏と会い、同僚とともにソチまで同行したことも認め、タズ氏が「興味深い情報」を所持していたからだと説明。ただ、その情報の中身は明かさなかった。
「マトベイ氏」は、この情報を手にした後でタズ氏を解放したと述べ、拷問は否定。ロイターに「当然あり得ない。自分からここにやって来た人にどうして拷問する必要があるのか」と述べた。
タズ氏は、拷問後に地元エネルホダルの有力政治家の名前を提供することも求められたほか、7月1日に受けた電話では自分をロシア大統領側近だと紹介した人物から、ザポロジエ原発で動画ブログを配信する仕事をしないかと提案された。
ロイターは、この電話がイリヤ・チェルメンスキーと名乗る人物からだったと突き止めた。
チェルメンスキー氏はロイターの問い合わせに対して、プーチン政権のために働いていてタズ氏に電話したものの、タズ氏に仕事のあっせんはしなかったと説明した。チェルメンスキー氏によると、タズ氏が拷問を受けたことや、それまで置かれてきた状況については何も知らないという。
タズ氏と母親は、7月12日にようやくジョージアに入国。タズ氏はそこからスイスまで移動する途中で、元同僚の1人から自分がエネルゴアトムを解雇されたことを知った。
現在、米国に渡っているタズ氏は、スイス滞在中にロイターの取材に応じ、FSBの「マトベイ氏」から事実を明るみにすれば毒殺すると脅されているにもかかわらず、声を上げることを決めたと述べた。ロシアが脅迫し続けるのを許したくなかったからだ。「だから、あらゆる危険や恐怖があっても、私の話を公にしようとしている」と強い決意を口にした。
ロイターが以前会話した「マトベイ氏」の番号に電話を再びかけると、今度出た人物は違う番号にかかっていると返答した。
FSBは、脅迫されているというタズ氏の主張についての質問には、回答していない。
(Cecile Mantovani記者、Maria Tsvetkova記者、Christian Lowe記者)
*システムの都合により再送します。
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