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概要:[東京 30日] - 「歴史は時期尚早な金融緩和を強く戒めている」──米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は26日に行われたジャクソンホール・シンポジウムの基調講演でこのように語り、来年中にも利下げが開始されるとの市場の見方を強い言葉でけん制した。
[東京 30日] - 「歴史は時期尚早な金融緩和を強く戒めている」──米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は26日に行われたジャクソンホール・シンポジウムの基調講演でこのように語り、来年中にも利下げが開始されるとの市場の見方を強い言葉でけん制した。
「歴史は時期尚早な金融緩和を強く戒めている」──米FRBのパウエル議長はジャクソンホール・シンポジウムの基調講演でこのように語り、来年中にも利下げが開始されるとの市場の見方を強い言葉でけん制した。尾河眞樹氏のコラム。
実は、筆者は今回の同シンポジウムでは、特にサプライズはないだろうと考えていた。9月21、22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、金融政策の発表に加え、メンバーの経済見通しや政策金利見通し(ドットチャート)などが公表される重要イベントだ。
しかしその前に、8月の雇用統計、8月の消費者物価指数(CPI)といった、米国のインフレを見極めるのに重要な経済指標の発表が控えている。パウエル議長が金融政策は「データ次第(Data Dependent)」としている以上、それらを確認する前の、同シンポジウムのタイミングで、金融政策に関する強い方向性を示す可能性は低いと考えていたのだ。
結果は想像以上にタカ派的な内容で、その後NYダウは約1000ドル急落するに至った。同講演で新たに得られた情報として、「利上げ後に金利を据え置く」方針が示唆された。他のFRB高官からも、これを支持する発言が相次いでいる。7月以降の米経済指標の悪化を受けて、9月のFOMCで公表されるドットチャートでは、むしろ6月時点のドットの分布が全体的に引き下げられると市場は読んでいたはずだ。
実際、6月時点のドットチャートの中央値は2022年が3.375%、23年が3.75%と、23年に利上げのピークを付けたあと、24年は3.375%、25年が2.5%と政策金利が引き下げられていく見通しが示されていた。一方、FF金利先物では、少なくともパウエル議長の講演前までは、23年が3.0%付近と、ドットチャートよりはるかに低い政策金利が予想されていた。しかし、上述したパウエル議長の発言を見る限り、9月のFOMCではむしろ、24年以降のドットが全体的に引き上げられる可能性が浮上したと言えよう。
<タカ派発言の背景>
パウエル議長がこのタイミングでタカ派色の強いメッセージを出してきたのは、おそらく期待インフレ率(ブレークイーブンインフレ率)の動向が影響したと筆者は考えている。米経済指標の悪化を受けて景気後退懸念が台頭した8月上旬には、米10年債利回りが一時2.5%台まで低下した場面があった。直近で再び3%台に乗せてきたことはFRBにとって朗報だろうが、安心するにはまだ早い。7月には2.3%付近まで低下していた米期待インフレ率(10年物)が、足元2.6%付近と、再び上昇しはじめているからだ。
この結果、名目金利(10年債利回り)から期待インフレ率を除いた米実質金利は、0.4%程度に留まっていることになる。パウエル議長が繰り返し述べてきた通り、米国の景気過熱を抑え、インフレを抑制するためには、景気が減速する必要がある。それには、金融環境を引き締めるべく、米国の実質潜在成長率1.8%に近い水準、せめて1.5%程度までには実質金利を上昇させなければならないだろう。足元の0.4%付近では、金融環境はむしろ緩和的で、利上げ効果が削がれてしまい、むしろインフレが高止まりするリスクがある。
<逆イールドと景気後退>
それでも過去の利上げ局面では逆イールドが起きると、景気後退に陥るケースがみられた。このため、2年債と10年債の逆イールド現象をみて、市場では米国が景気後退に陥るとの見方もある。確かに、金融機関にとってみれば、調達金利が急速に上昇し、運用金利が低いままでは逆ザヤになってしまうため、たとえば銀行の貸出態度が悪化するといった形で、ジワジワと景気に悪影響を及ぼす可能性はあるだろう。
しかし、過去逆イールドが起きた局面を確認してみると、例えば2007年は米2年債利回りが4.9%、米10年債は4.8%だったし、2000年は米2年債が6.6%、10年債が6.2%、1989年に至っては、2年債が9.6%、10年債が9.3%だった。これらを見る限り、現在は金利水準自体が低いため、逆イールドになったからといって、すぐに景気後退入りする可能性は低い。
<重要なFRBへの信認>
FRBは今後、米実質金利を着実に引き上げるため、米長期金利の上昇と、米期待インフレ率の低下を促すだろう。しかし、促すと言っても、FRBは日銀と異なり10年債利回りを固定していないため、イールドカーブをコントロールするのは不可能だ。一方期待インフレ率は、原油価格に連動する傾向はあるものの、基本的には市場参加者が今後のインフレ率をどう見るかが反映される。
ここで重要になってくるのが「FRBに対する信認」だ。つまり、FRBの利上げが奏功し、先行きはインフレが抑えられると予想されれば、期待インフレ率は低下するし、インフレが抑制できないと判断される場合は、期待インフレ率が上昇する。7月下旬から8月上旬には米経済指標が悪化し、FRBが利上げの手を緩めるのではないか、との期待が高まったことで、期待インフレ率がじわりと上昇しはじめた。
高インフレとFRBの大幅利上げが続くなかで、米経済指標は今後、さらに弱いものが目立つようになるだろう。そこで、市場参加者の間で利上げペースが減速するのではないか、あるいは、利下げに転じるのではないか、といった「期待」が再び台頭し、期待インフレ率が上昇したり、実質金利の低下に伴って株式などの資産価格が上昇することのないように、FRBは経済指標の減速如何にかかわらず、当面はタカ派的なメッセージを発し続けるのではないだろうか。
<目先のドル下落は買い場>
実際、パウエル議長は今回の講演で、インフレ抑制には「家計や企業に痛みをもたらす」などのコストが伴うことを認めたうえで、「物価安定の回復失敗はより大きな痛みを意味する」と述べた。つまり、景気をある程度犠牲にしてもインフレ抑制を優先する姿勢を明確に示したのである。これまでも述べてきた通り、ドル円相場は長期にわたり、日米実質金利差との相関性が高い。今後、FRBが米実質金利の一段の上昇を促すとするならば、日米実質金利差の拡大に伴って、ドル円は当面堅調地合いが続くと予想される。原油価格の下落と、ガソリン価格の低下によって、米インフレはピークアウトの兆しがみられている。おそらく今後発表される消費者物価指数なども、これが反映され始めるだろう。
しかし、そうした指標を受けてドルが下落した場合、今後少なくとも半年程度は、そこはむしろドルの買い場と捉えるべきなのかもしれない。FRBが利下げに転じる時、あるいはそれがそろそろ見えてくる頃には、本格的なドル安トレンドへの備えが必要になってくるが、そのタイミングはまだ1年以上先であることが、今回のジャクソンホール・シンポジウムで示されたように思う。
(編集 橋本浩)
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルグループの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。
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