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概要:新型コロナウイルス対策の厳しい規制措置に起因する世界貿易の混乱に新造貨物船不足が重なり、本来なら解体されるはずの老朽船の用船料(賃料)が記録的水準に達している。海上輸送コストの高止まりは、この先何年も世界的なインフレを助長する恐れがある。
[シンガポール 21日 ロイター] - 新型コロナウイルス対策の厳しい規制措置に起因する世界貿易の混乱に新造貨物船不足が重なり、本来なら解体されるはずの老朽船の用船料(賃料)が記録的水準に達している。海上輸送コストの高止まりは、この先何年も世界的なインフレを助長する恐れがある。
6月21日、新型コロナウイルス対策の厳しい規制措置に起因する世界貿易の混乱に新造貨物船不足が重なり、本来なら解体されるはずの老朽船の用船料(賃料)が記録的水準に達している。写真は中型貨物船シナジー・オークランド。ユーロシーズ提供(2022年 ロイター)
こうした老朽貨物船の引き合いの強さにつけ込む形で、船主側は3─4年の長期用船契約を相次いで確保している。建造中の新造船が数百隻単位で就役する時期まで、消費者が高騰する海上輸送費用のツケを背負わされる結果になるかも知れない。
例えばキプロス船籍の中型貨物船「シナジー・オークランド」(積載可能量は20フィートコンテナで4200個強)の場合、所有者のギリシャ企業ユーロシーズは2019年、当時で既に船齢が10年に達していた同船を1000万ドル(13億6000万円)で購入した。ところが世界の貿易活動が一挙に不安定化した昨年、この船はわずか100日間の契約で2100万ドルを稼ぎ出したのだ。この規模の船としては1日当たりの用船料は過去最高となった。
シナジー・オークランドはさらに短期契約で約1000万ドルを得た後、5月に6100万ドルで4年間の定期用船契約が結ばれた。つまり3年前のユーロシーズの購入価格の6倍以上のリターンだ。
ユーロシーズのパリアロス最高総務責任者はロイターに「市況が上向く中でほぼ完璧な運用ができた。コンテナ市場の歴史でこうした事例は今まで見たことがなかった」と語った。
海運調査会社クラークソンズ・リサーチによると、世界のコンテナ輸送量は18年に5.6%、19年に4%伸びた後、パンデミックが起きた20年も2.9%増加した。
しかしロックダウン(都市封鎖)期間中に消費財の需要が急拡大した上に、港湾で貨物処理が滞って想定より長く船舶が足止めされ、さらに新環境基準順守問題を巡る不透明感との兼ね合いなどから新造船の供給が鈍化した影響で、貨物船需給が引き締まり、用船料が高騰した。
コンテナ輸送量は昨年も4.5%増加。これは主に老朽船を解体せず使用し続けたためだったが、用船料押し下げには至らなかった。
ロイターが過去半年で締結された定期用船契約30件を調べたところ、船主側は数十年に1度の強気市場を背景に期間を長く、しかも用船料を極めて高水準に設定していることが分かった。
海上運賃情報プラットフォーム企業ゼネタの指数に基づくと、5月のコンテナ輸送コストの上昇率は30.1%と、長期輸送運賃の月間ベースで過去最高になった。
<世界の物価を押し上げ>
専門家に話を聞くと、海上輸送コストの高騰は既に中古車からダイニングテーブル、自転車まであらゆるモノの値上がりをもたらしており、今後も消費者に痛みを与えそうだ。
国際通貨基金(IMF)は、昨年のコンテナ輸送コスト上昇は世界の物価を1.5%ポイント押し上げ、米国の物価上昇率に占めるウエートはおよそ25%だったと見積もっている。
IMFのアジア太平洋部門シニアエコノミスト、ヤン・キャリエールスワロー氏は「海上輸送コストが物価動向に及ぼす影響は大きく幅広い。世界中の国に波及しつつある」と指摘。ロシアのウクライナ侵攻に伴う食料や原油の値上がりを消費者が実感するのは2カ月以内だが、海上輸送コスト上昇の影響が全面的に感じられるようになるのは最長で1年もかかると付け加えた。
さらに中国では新型コロナウイルス感染症の再拡大で港湾施設がまだうまく機能しておらず、造船会社は過去最高の新造貨物船を発注されているものの、大半は来年か2024年以降まで就役しない。
国連貿易開発会議(UNCTAD)の物流問題責任者ヤン・ホフマン氏は「高止まりしている海上輸送料は来年のかなりの時期まで消費者物価に上昇圧力を加え続けるだろう。輸送料はまだこの先何年も、コロナ禍前より高い状態になるのではないか」と述べた。
2人の船舶ブローカーが提供したデータによると、現在カリフォルニア州と中国の間を航行している貨物船「ナビオス・スプリング」は1月に3年の定期用船契約が結ばれ、用船料は1日当たり6万ドルと2年前の同8250ドルのおよそ7倍になっている。
船籍がマーシャル諸島の本船は07年の建造で、最初の船主の取得価格は4200万ドル。一方、今の3年契約で得られる収入は6570万ドルだ。
<海運業界は大もうけ>
海運業界は今年第1・四半期の利益が593億ドルと、前年同期の191億ドルを大きく上回った、と専門家のジョン・マッカウン氏は話す。同氏はロイターに「海運会社は勝ち組で、彼らの大幅な増益はコンテナで運んだ全ての商品の価格上昇によって生み出されている」と説明した。
世界第2位の海運会社マースクは第1・四半期が過去最高益となり、売上高も55%増えて193億ドルに達した。今年の利払い・税・償却前の利益見通しは300億ドルに上方修正されている。
専門家によると、大手海運会社の一部がこうした利益をつぎ込んでいるため貨物船の価格が高値で推移し続け、運賃高騰と将来のインフレを助長することになるという。
<いつ潮目が変わるか>
クラークソンズのデータを見ると、昨年売却された中古コンテナ船は過去最高の503隻で、世界の総数の7%相当だった。今年1-5月でも108隻が売却された。
世界の海運最大手メディタラニアン・シッピング・カンパニー(MSC)は20年8月以降で200隻の中古コンテナ船を購入している。
クラークソンズは、今年解体されているコンテナ船はゼロのため、17年の時点で11年だった世界のコンテナ船の平均船齢は13.9年に延びたと明らかにした。
それでも、主要企業が発注した巨大新造船の多くが就役する来年ないし2年後には、貨物船需給ひっ迫局面は終わりを迎える可能性がある。
世界海運協議会(WSC)のデータでは、昨年発注されたコンテナ船は計555隻、総額425億ドルと過去最高を更新。今年これまでにも208隻、総額184億ドルの注文が出ている。
これら新造船の幾つかは過去最大クラスで、全長は400メートルと昨年スエズ運河で座礁事故を起こした「エバー・ギブン」に匹敵する。マースクはロイターに、昨年同社が発注した12隻は、この記事の冒頭で紹介した「シナジー・オークランド」の4倍近い大きさだと説明した。
ゼネタのチーフアナリスト、ピーター・サンド氏は、港湾施設やサプライチェーンがパンデミック以前のように機能すれば、次々に就役する新造船が海上運送コストを押し下げてもおかしくないとの見方を示した。
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