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概要:植田和男総裁に交替したことで、大多数の市場関係者が何となく、日銀の金融政策を歓迎するムードになっている。このムードは、黒田緩和が抱えてきた問題を見過ごしやすくさせている。
[東京 20日] - 植田和男総裁に交替したことで、大多数の市場関係者が何となく、日銀の金融政策を歓迎するムードになっている。このムードは、黒田緩和が抱えてきた問題を見過ごしやすくさせている。
植田和男総裁(写真)に交替したことで、大多数の市場関係者が何となく、日銀の金融政策を歓迎するムードになっている。このムードは、黒田緩和が抱えてきた問題を見過ごしやすくさせている。熊野英生氏のコラム。写真はワシントンで13日撮影(2023年 ロイター/Elizabeth Frantz)
黒田東彦総裁時代の後半に問題だったのは、為替レートが円安方向に向かいやすくなることだった。これは、円安バイアスと言い換えられる。円安バイアスは、輸入物価をさらに上昇させやすくして、日本国内の食料品やエネルギー価格の上昇に拍車をかけた。この傾向は、植田総裁の下であっても、当面は続いていく可能性が高い。
<「安い日本」が進む>
植田総裁が円安バイアスについてどう考えるか、という問題は後に置いておいて、まずは黒田時代にどれだけ「安い日本」が進んだのか確認しておきたい。
黒田総裁の就任前(2013年2月)とその10年後(2023年2月)を比べると、消費者物価指数(CPI)はわずか10.5%%しか上昇していない。同じ期間にドル/円レートは47.2%%も円安に振れた。
米国のCPIは、円ベースで計算して、この10年間に1.91倍も上昇している。日米物価格差は何と1.72倍まで拡大した計算になる。この倍率は、日本人が米国の物価に対して、どれだけ割高に感じるようになったかという格差でもある。
裏返して見れば、米国人は日本の物価を10年間で42%も割安に感じるようになった。「安い日本」を演出したのが、黒田緩和のもう1つの顔なのだ。
<全面安になった円>
「安い日本」は対米国だけで進んだわけではない。対欧州連合(EU)ではどのくらいかを計算すると、日本とEUの格差は1.37に拡大している。欧州の人々は、27%ほど日本を安く感じている。
日本と中国の格差は1.43倍。中国人は、30%ほど日本を安く感じている。ほかにも、英国や韓国も日本を割安に感じている。日本は全面安になっているのだ。
この差は、日本人が海外に旅行や出張、留学などに行ったときに「何だか高いな」と感じさせる要因となる。これは円の購買力の割安感とイコールなのである。
この格差が著しく広がったのは、コロナ禍の2020年春以降である。海外では物価上昇が進んだ。ドル/円レートは、2022年春から急激に円安に向かった。
当初、海外でインフレになると、通貨は下落するから、円安ではなく円高になるはずと考える人もいただろう。購買力平価という考え方ではそうなる。
しかし、実際は、金利差の方に為替は反応する。日本だけがイールドカーブ・コントロール政策(YCC)で長短金利を低位にくぎ付けにしていた。その間、米連邦準備理事会(FRB)の利上げが進み、2022年春以降に急激な円安を生み出した。
あえて言えば、このときに黒田総裁は一貫して緩和継続を強調した。それが円安バイアスを生んで、「安い日本」に拍車をかけたのだ。
<慎重な植田総裁>
国会での所信表明を聞き、就任会見を経て、植田総裁の政策姿勢が次第にわかってきた。安定的な2%の物価上昇の達成に意欲を示しつつも、政策修正には少し時間をかける意向だ。米銀不安など外的ショックも加わって、就任早々の4月末に長期金利の上限引き上げは行いそうにない。
すると、ドル/円レートは再び円安バイアスが働きやすくなる。3月上旬に米銀不安が起こり、1カ月くらいは円高方向に戻すことはあった。しかし、不安が後退していくと、130円台後半へと動かされていく。背景には、植田総裁の政策修正への慎重さが徐々に伝わってきたことがある。
植田総裁が緩和継続を強調することは、円安を通じて、輸入物価を押し上げるだろう。 輸入物価は、黒田総裁の時代から大きな内外価格差があり、日本にとっては物価上昇圧力になる。そこに円安がさらなる上昇圧力をかける。
植田総裁は、2023年度後半に2%の上昇率を割り込んでくる可能性を示唆してきたが、円安が促されると今度は2%以上になっていくこともあり得る。
そこで、すぐに2%の達成を宣言せずに「見極めに時間を要する」と慎重姿勢を述べれば、CPI上昇率は2%以上で推移するだろう。実は、そうした政策運営は、円安をテコにして物価上昇を演出した黒田総裁とあまり差がないことになる。「安い日本」も続くということだ。
<学者らしくあった方がよい>
過剰とも思える円安バイアスは、「安い日本」を生み出し、日本人の購買力を海外流出させてしまった。これは、交易条件の悪化として、あまり歓迎できない。
筆者は、「円高が好ましい」と言っているのではなく、行き過ぎた円安も行き過ぎた円高と同様によろしくないと考えている。植田総裁は、こうしたゆがみの是正にまで歩を進めていくのだろうか。
植田総裁は、就任会見で興味深いことを述べていた。「学者の場合、学者として面白いこと、正しいことを書かないといけない。これに対して、政策担当者は関係する全てのことを考慮していかないといけない」と答えていた。
これは正論なのだが、多くの人が植田総裁に求めているのは、むしろ前者の学者らしさの方だと感じる。実務家は、すでにある前提や状況に縛られて、何もできずに任期を終わることが多い。植田総裁には学者らしく正しいことを大胆に行ってほしい。
学者時代の植田総裁は、日本経済の潜在成長率を上げなくてはいけないと語っていた。そして、政策金利が低過ぎるとと、金融政策の効果がほとんど発揮できないとも語っている。
植田総裁に求められることは、黒田時総裁の時代に縛られた金融政策から「できるだけ早期」に脱却することだろう。そして、潜在成長率を引き上げるような提言も積極的に行った方がよい。状況に縛られると何もできなくなると思う。
編集:田巻一彦
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。
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