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概要:上野泰也 みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト [東京 26日] - 米中通商協議が妥結して貿易戦争が終結に向かうとの期待感を主な材料に、米国株は25日にかけて堅調に推移し、ダウ工業株30種平均とナスダック総合指数は9週連続の上昇を記録した。 ダウは2万6000ドルを回復し、S&P500種は大きな節目である2800に接近している。 しかし、昨年10月から年末年始にかけて急落していた米国株が、にわかに活気づいている真の原動力となったのは、米連邦準
上野泰也 みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
[東京 26日] - 米中通商協議が妥結して貿易戦争が終結に向かうとの期待感を主な材料に、米国株は25日にかけて堅調に推移し、ダウ工業株30種平均とナスダック総合指数は9週連続の上昇を記録した。
ダウは2万6000ドルを回復し、S&P500種は大きな節目である2800に接近している。
しかし、昨年10月から年末年始にかけて急落していた米国株が、にわかに活気づいている真の原動力となったのは、米連邦準備理事会(FRB)による「金利」と「量」という複線的な金融引き締めが、共に年内に終わろうとしていることだ。
<量的引き締め終了のインパクト>
金融市場調節の現場責任者でFRB指導部の一員でもあるニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は19日、「現在の金利水準は快適」と述べた上で、金利は自身が考える「中立」の低めの水準に到達したもようだ、とロイターとのインタビューで語った。
また、同総裁は、利上げ再開には1つかそれ以上の上振れ要因が必要になると説明。「大幅な変化とは言わないまでも、成長やインフレ率を巡る、異なる見通し」が利上げの条件になると言明した。
20日公表された1月の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨には、「フェデラル・ファンド(FF)金利の目標レンジを巡り、多くの参加者はどのような調整が年内に適切となり得るか、まだ明確ではないとの見方を示唆した」と指摘。「一部参加者はインフレ率が基本見通しを上回った場合に限り、利上げが必要になり得ると主張した」とある。
この中にウィリアムズ総裁が含まれている可能性は高く、ハト派に傾斜しているパウエルFRB議長とクラリダ、クオールズ両副議長の考えも、それに近いと推測される。
追加利上げムードの沈静化に加えて、というよりもそれ以上に市場に大きなインパクトを及ぼしているのが、銀行の準備預金の大幅減少や、NY連銀によるFF金利操作を巡るテクニカル事情といった「からめ手」からの議論を一種の言い訳にしつつ、FRBのバランスシート縮小という「量的引き締め」が年内に終わろうとしていることだ。
<「カネ余り相場」への安心感>
FRBが2017年秋からバランスシート縮小を開始してもなお、米国株の上昇が持続したのは、「金融市場取引がグローバル化している中、米国がバスタブから水を緩やかに抜き始めても、ユーロ圏や日銀が蛇口を開けたままであれば、水量は増え続けるから大丈夫」といった、「カネ余り相場」持続に対する安心感だった。
実際、日米欧主要3中銀が抱える総資産(バランスシート規模)の合計額は18年に入っても拡大を続けた。
だが、欧州中央銀行(ECB)は、景気指標下振れの継続や消費者物価の伸び悩みにもかかわらず、計画通り18年末で量的緩和をやめて再投資政策に移行することを選択した。
ECBのバランスシート規模が横ばいになると、FRBによる縮小と日銀による拡大の「綱引き」になるわけだが、ドル換算では前者の方が規模は大きいので、19年に入ると3中銀のバランスシート合計額はついに縮小に転じる。それが数カ月先に見えたことで市場心理はにわかに不安定化し、ハイテク株や原油などいくつかの「ミニバブル」崩壊を伴いつつ、米国株は急落した。
ところが、今年に入り、FRBはハト派に急旋回した。パウエル議長はバランスシート縮小を早い段階で終えると言い始め、ブレイナードFRB理事は14日、縮小は年内で終了すべきだ、と述べて、さらに一歩踏み込んだ。
米国株にとって、実に大きなバレンタインデーのプレゼントになったと言える。年内のバランスシート縮小終了が多数意見だということは、その後、1月のFOMC議事要旨で確認された。
<FRBと日銀のベクトル>
こうした状況下で足元の金融市場は、「カネ余り相場の宴よ、もう一度」とでも表現すべき、期待を膨らませながらの動きになっている。FRBのバランスシート縮小が早期に終われば、日銀の動きを原動力に、3中銀のバランスシート合計額は緩やかながらも再び拡大に転じるだろう。
また、景気下振れに対する警戒を強めているECBが貸出条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)を再開すれば、同中銀のバランスシート規模が再び拡大する可能性も出てくる。
米国で利上げ局面が終了し、利下げ観測が今後市場で台頭すると、日本と米国の金融政策のベクトル(方向感)に差がなくなり、ドル円相場は、円高/ドル安方向に大きく動いていくというのが、筆者の予想の基本線だ。
だが、「カネ余り相場」の再開期待を背景とする「リスクオン」の持続は、ドル以外のさまざまな通貨に対する円売りにつながり、ドル円が100円を目指そうとする動きに対してカウンターで効いてくる可能性がある。両者の「綱引き」がどうなるかが、当面のポイントになる。
もっとも、1つ押さえておくべきは、「カネ余り」にのみ過度に依存し、実体経済や企業業績の十分な裏付けのない米国株の上昇及びそれに付随する「リスクオン」に、持続性は伴わない、という点だ。
また、経済指標や株価動向をにらみつつ、例えば6月のFOMCで米利上げ再開をもくろむ動きが米国で広がるような局面では、それがネガティブサプライズとなり、米国株が昨年秋以降の下落を超えるマグニチュードで急落する潜在的リスクがあることを忘れてはなるまい。
その場合でも、よほどうまくFRBが立ち回らない限り、ドル円で100円を試すような円高方向の動きが見られるだろう。
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。
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